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第30話

そう吐露すれば、少しだけ胸のつかえが取れる。 「……幹生くんに?」 若葉の、少し驚いた声。 こくんと小さく頷いた後、怖ず怖ずと口を開く。 「その時、デジタルタトゥーの話を聞かされました。……もっと、警戒心を持った方がいいって」 両手の指先に力を入れ、ギュッと握り拳を作る。 「ここに引っ越してから、ずっと部屋に籠もってたから。もうそろそろ、元の生活に戻らないとって、思ってたのに。……外に出るのが、怖くて」 「……」 「でも、一歩踏み出す勇気を持てたのは……若葉が、御守りの鈴を僕にくれたから」 「……」 それに、雨も降ってたから。 傘で顔を隠せるし……何より、凌の住んでいたマンションを、視界から追いやれるから。 「なのに。そんな事言われたら、また……」 「……そう」 それまで静かだった若葉が、僕の言葉を遮るよう小さく溜め息をつく。 「そうね。勇気を出して外へ出たのに、そんな事言われたら辛いわね」 「……」 「ねぇ。さくらは、人から『好き』『嫌い』『無関心』の、どの感情を一番多く持たれていると思う?」 「……え」 唐突な質問に理解ができず、必死に頭を働かせる。 「正解は、『無関心』よ」 柔らかく、寄り添うような囁き声。肩口から顔を覗かせながら、僕の胸の前で交差する若葉の腕。その腕に力が籠められ、僕の身体をしっかりと抱き締める。 「あなたを『好き』な人が2割。『無関心』が7割。『嫌い』が1割。……だそうよ。 昔、お世話になった精神科医から聞かされたの。──2:7:1の法則って言うみたい」 「……」 「大丈夫。さくらが思ってる程、相手はそこまで感心を持っていないわ。……そんなに、脅えなくてもいいのよ」 不思議と……若葉の言葉が、それまで燻っていた僕の心を浄化してくれる。 「……」 確かに。 僕が他人に余り関心がないように、相手も僕にそこまで関心を持っていないかもしれない。 スーパーで鍵を拾ってくれた人だって、変な下心は無くて。やっぱり岩瀬が警戒するような人じゃないんだ。 「……うん」 俯き加減でそう答えれば、組んでいた若葉の腕が解かれ、僕の米神辺りをその手のひらが覆う。 こつん……、 そのままそっと若葉の方へと引き寄せられ、頭と頭が優しくぶつかった。

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