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第39話

『姫っ、!』──意識を失う直前、瞳に焼き付いていたのは、驚いた表情のモル。 「……」 ……どうしよう。 あれからもう、ふた月近くも経ってしまってる。 落ち着かない心臓。紙を持つ指先の感覚が、次第になくなっていく。 「意識を失って倒れていたさくらくんを見た瞬間、ただ事ではないと直感した。反社の彼が、君を追い詰めたのではないかと」 「……」 「そう思ったら、君の手からその紙を抜き取ってしまっていた。……本当に、すまない」 背筋を正した岩瀨が、深く頭を下げる。 「……」 「もし、何か悩んでいる事があるなら、……助けが必要なら。遠慮なく頼って欲しい。警察官として、君の力になりたいと心から思っている」 頭を下げたまま、岩瀨がはっきりとそう言い切る。 「……」 きっと、その言葉に嘘偽りはないんだろう。だけど……今僕が必要としてるのは、そんな謝罪や気遣いなんかじゃない。 一刻も早く、モルと連絡を取りたい。

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