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第40話 突然のキス

××× 向かったのは、駅構内。 逸る気持ちを抑え、公衆電話の受話器を外す。 岩瀨に紙を返されてから、ずっと落ち着かなかった。布団に入っても中々寝付けず、朝がやって来るのをただ只管に待つしかなかった。 10円玉を3枚入れ、12桁の番号を押す。 もし繋がらなかったらどうしよう──そんな後ろ向きの考えがぐるぐると頭の中で回り、不安が募っていく。 他に連絡をとる方法なんて、知らない。モルの行きそうな所も、住んでいる場所さえ知らないんだから。 だから、どうか……繋がって。 『もしもし』 硬貨が落ちる音と同時に響く、懐かしい声。その声に、安堵の溜め息をつく。 『……あの、どちら様ッスか?』 「……」 何となく、声色が堅い。他人行儀のそれに怯み、開きかけた唇を一度噤む。 「……モル……」 縋るように再び唇を動かし、小さく言葉を漏らせば、電話向こうの空気が一変したのが解った。 『……ひめ……?!』 先程までとは違う、聞き慣れたトーン。 「……うん」 『えっ、あ、……ちょっ、ちょっと待ってて下さいッス!』 慌てふためく声が、耳元で響く。その様子が目に浮かぶようで、思わず口端から笑みが溢れる。 ブーッ、 警告音が鳴り、慌てて10円玉を数枚投入する。公衆電話なんて普段利用したりしないから、どれ位掛かるか解らなかったけど……小銭を少し多めに用意しておいて、よかった。 『すいません。今、ちょっと抜けてきたんで……』 「……」 静かな所に移動したんだろう。先程まで聞こえていた電話向こうの喧騒が、今は殆ど聞こえない。 『今、公衆電話からッスよね』 「うん」 『じゃあ、手短に伝えるんで。何かメモできるものって、持ってないッスか?』 「……あ、待って……」 慌ててショルダーバッグから、ノートとボールペンを取り出す。 『いいっすか?』 「ん」 『来週の金曜19時、S駅西口の××ホテル○号室に来て下さい。リュウさん、そこで待ってますから』 ……リュウ…… その名前を耳にした瞬間、心臓が大きく跳ねる。

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