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第41話

『愛してる』──凌のマンションに乗り込み、AV撮影での本番行為を強要された僕を助けてくれた竜一。電話越しに聞いたその言葉が蘇り、耳奥で柔らかく響く。 あの言葉の真意が解らないのに、つい自惚れてしまいそうになる。もしも竜一が、本当に僕の事を想ってくれているのなら……嬉しい。 僕の初めてを、春の嵐の如く奪い去ったのも、アゲハの弟だから……だけじゃないんだよね。 確かめてみたい。 直接会って、ハッキリとさせたい。 竜一の気持ちが何処に向かっているのか。 本当は、誰を想っているのか── 『もし何かあったら、連絡して下さいッス。それじゃ……』 「……っ、!」 ブザー音に気付き、慌てて財布を広げる。だけど、小銭を探しているうちに通話が切れてしまった。 たった一言──モルに謝りたかった。連絡が遅れてしまった事。訪ねて来てくれた時、突然倒れてしまった事。 それから── 「……」 受話器を耳から離し、ホルダーにそっと掛ける。 それを聞いて、どうするんだろう。 もし、僕の仮説通りだったとしたら。ハイジは、もう…… 取り出したノートとボールペンを、ショルダーバッグに仕舞う。 きっと何処かで生きてる──その強い思いは容易に揺らぎ、薄らいでしまったけど。今はまだ、その希望を失いたくない。 * 「……」 ぽかぽかする陽射し。 気怠くて、まるで生温い水の中に沈められてる気分。 何てことはない一日を教室で過ごし、決して相容れる事のないクラスメイト達を尻目に廊下に出る。 ひんやりとする渡り廊下の向こう側に行けば、陸地に辿り着いたかのように、次第に呼吸が楽になっていく。 実験室に足先を向けようとして、止める。先月、あんな光景を見てしまってから、何となく化学教師とは会いたくない。 廊下の突き当たりに向かい、重たいドアを開ける。と、冷たい突風が吹き込み、僕の前髪や横髪を四方八方に掻き乱す。 一歩踏み出し、片手で横髪を抑えながら非常階段に出る。分厚いコンクリート造りの向こうに見えるのは、学校を囲うように植えられた桜の木々。色気のない細い枝には、まだ人々を魅了する花など付けてはいない。 「……」 あの桜の花が咲いたちょうど一年前──家の前に立つ竜一に、初めて声を掛けた。

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