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第33話

だけど直ぐに、嫌悪感を抱く。 まるで校則の模範生──真面目を絵に描いたような身形をしたこの男に、どうしてそんな事を聞かれなきゃいけないんだ。 「……ぼ、僕は、その……君に憧れを抱いています。 決められたレールの上を自ら退き、鋳型に嵌まらない自由な生き方をしていて。……そんなの、僕には到底真似できそうにないから」 「……」 突然、何を言い出すんだろう。 顔を真っ赤にして。僕なんかに緊張して。声まで震えて…… 「格好いいです。……す、素敵です」 「……」 「……す、すす……す…き、……です……!」 言い終わるか終わらないかのうちに、伏せられる顔。瞼をギュッと閉じ、耳まで真っ赤に染めて。 「……」 驚いた。 まさかこんな所で、告白されるなんて…… 「……べ、別に、僕は……男が好きって訳じゃない……と思う。男とキスなんて、想像しただけで気持ち悪いし……」 「……」 「でっ、でも! 君となら、抵抗がないというか。……し、してみたいって思える。 君の事を考えるだけで、勉強が手に付かなくなるし。君と……その、抱き合ったりキスをしたりする所を想像するだけで、この胸が熱くなって……堪らなくドキドキするんだ」 「……」 「これも、……男が好きって事に、なるのかな……」 ゆっくりと瞼を持ち上げ、少しだけ潤んだ瞳を伏せたまま握った右手を胸に当てる。 「……」 そんなの、考えた事もなかった。 竜一に初めてを奪われた時──心と心が重なったような感覚に陥り、そこから生まれた感情を自然と受け入れてしまっていたから。戸惑ったり悩んだり、疑問にさえ思わなかった。 もし、彼のように真っ当な人生を送っていたとしたら……僕も同じように、思い悩んでいたのだろうか。 性別を越えて芽生えてしまったこの感情が、憧れなのか、恋なのか。それすらも解らずに…… スッ、 左手を上げ、彼の方へと伸ばす。 色んなものを全部すっ飛ばしちゃったから、僕には何も答える事はできないけど──もしかしたら僕は、彼自身だったかもしれない。 「……」 そう思ったら、視線を上げ驚いた顔を見せる彼をそっと抱き締めていた。 若葉が僕に、そうしてくれたように……

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