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第45話

「……」 トクン……トクン…… 包み込まれる、竜一の体温。匂い。息遣い。心音。 ただそれだけなのに……心と心が、触れ合ったように、温かい。 他の誰とも違う。背中に当てられた大きな手のひらから、陽だまりのような心地良さを感じる。 ずっと欲しかった、温もり──僕の居場所。 初めてを奪われた時に感じたこの感覚は、決して嘘なんかじゃない。 両手をそっと持ち上げ、竜一の背中に触れる。引き締まった広い背中。 鼻から息を吸い込めば、香水とは違う竜一の匂いでいっぱいになる。 ……ああ、この人だ。 僕がずっと求めていたのは、この人だ。 そう思った瞬間、目の前が眩い程の光に包まれ、キラキラと煌めいていく。 少しだけ速くて同じ速度の、心音と心音。触れた所や触れられた所が、熱くて……溶けてしまいそう。 「……」 「……」 不意に、竜一の腕が緩む。 重なり合っていた心音が離れ、無情にも空いた隙間から現実が流れ込んでくる。 怖ず怖ずと視線を上げれば、先程まで険しい顔付きをしていた竜一が、穏やかな表情で僕を見下ろしていた。 「……さくら」 低くて、優しい声。 無機質なガラス玉のような眼が少しだけ緩み、潤んで光っているように見える。瞬きを忘れじっと見上げていれば、後ろ髪に指を差し込まれ、僕の名を呟いた唇が舞い降りる。 そっと瞼を閉じれば、唇にその熱が触れた。 「んっ……!」 歯列を割り、半ば強引に滑り込んでくる熱い舌先。それを受け入れながら、竜一のジャケットを強く掴む。 溶ける…… ……溶けちゃう…… 逃げ惑う僕を追い掛け、貪るように咥内を掻き乱す。怖ず怖ずと舌先を差し出せば、捉えた竜一の舌が絡み付いて離さない。 ……はぁ、はぁ、 クチュ、 混ざり合う吐息。絡まる唾液。 何度も角度を変え、次第に深くなっていく口吻。僕の舌根まで絡み付く度に、息が上手く出来なくなって…… 苦しいのに……止めたくない。 ……離れたくない。 掴んだ布地を引っ張り、もっと欲しいと求める。 このまま、時が止まってしまえばいいのに。 もしも夢なら……覚めないで───

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