45 / 71
第45話
「……」
トクン……トクン……
包み込まれる、竜一の体温。匂い。息遣い。心音。
ただそれだけなのに……心と心が、触れ合ったように、温かい。
他の誰とも違う。背中に当てられた大きな手のひらから、陽だまりのような心地良さを感じる。
ずっと欲しかった、温もり──僕の居場所。
初めてを奪われた時に感じたこの感覚は、決して嘘なんかじゃない。
両手をそっと持ち上げ、竜一の背中に触れる。引き締まった広い背中。
鼻から息を吸い込めば、香水とは違う竜一の匂いでいっぱいになる。
……ああ、この人だ。
僕がずっと求めていたのは、この人だ。
そう思った瞬間、目の前が眩い程の光に包まれ、キラキラと煌めいていく。
少しだけ速くて同じ速度の、心音と心音。触れた所や触れられた所が、熱くて……溶けてしまいそう。
「……」
「……」
不意に、竜一の腕が緩む。
重なり合っていた心音が離れ、無情にも空いた隙間から現実が流れ込んでくる。
怖ず怖ずと視線を上げれば、先程まで険しい顔付きをしていた竜一が、穏やかな表情で僕を見下ろしていた。
「……さくら」
低くて、優しい声。
無機質なガラス玉のような眼が少しだけ緩み、潤んで光っているように見える。瞬きを忘れじっと見上げていれば、後ろ髪に指を差し込まれ、僕の名を呟いた唇が舞い降りる。
そっと瞼を閉じれば、唇にその熱が触れた。
「んっ……!」
歯列を割り、半ば強引に滑り込んでくる熱い舌先。それを受け入れながら、竜一のジャケットを強く掴む。
溶ける……
……溶けちゃう……
逃げ惑う僕を追い掛け、貪るように咥内を掻き乱す。怖ず怖ずと舌先を差し出せば、捉えた竜一の舌が絡み付いて離さない。
……はぁ、はぁ、
クチュ、
混ざり合う吐息。絡まる唾液。
何度も角度を変え、次第に深くなっていく口吻。僕の舌根まで絡み付く度に、息が上手く出来なくなって……
苦しいのに……止めたくない。
……離れたくない。
掴んだ布地を引っ張り、もっと欲しいと求める。
このまま、時が止まってしまえばいいのに。
もしも夢なら……覚めないで───
ともだちにシェアしよう!