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第51話

去年の春──アゲハのベッドで竜一に犯された。 それを、帰宅したアゲハが目撃。 それとは逆の事が……いま、僕の目の前で起こってる。 これは、復讐だ。 アゲハが僕に仕掛けた、罠だ─── 「さくら、お願いだ。……ちゃんと話を聞いて」 尚も強く腕を引っ張られ、アゲハが顔を寄せてくる。 ……やめて……! ぞわぞわと背筋を走る寒気。 掴まれている所が、痛い。 心が、痛い…… 膝を立て、伏せた顔を両腕で覆い隠し、必死に抵抗していれば……諦めたのか、次第にアゲハの手が緩んで離れていく。 「………さくら」 遠くの方から聞こえる、甘えつくような猫撫で声。 ゆっくりと顔を上げ腕の間から覗いて見れば、上体を起こして真っ直ぐ此方を向く若葉と目が合う。 「……」 間接照明の柔らかな光が幻想的な陰影を作り、まるで彫刻の女神のよう。この薄闇の中でも解る程の妖艶な微笑み。艶やかに光る長い髪の毛先が、まるで陶器のような肌の上を滑り落ち、綺麗に浮き出た鎖骨を隠す。 「アゲハも一緒に、……こっちにおいで」 指先を揃えた左手が中空に上がり、ゆっくりと手招く。掛け布団の上に添えられたその反対側の手には、鋭く光る鋭利な刃物が。 「……どういうつもりだ」 若葉に視線を向けながら、小さく身体を丸めて踞る僕をアゲハが抱き寄せる。まるで僕を庇うかのように。 「どうって……兄弟は、仲良くしなくちゃね」 「……」 瞳を柔らかく細め、少しだけ首を傾げながら答える若葉。 いつもとは違う、怖いほどの優しい声色。しっとりと濡れたように光る睫毛や瞳。血の如く真っ赤な唇の片端がクッと持ち上がり、妖しげに微笑めば、若葉を取り巻く空気がピンと張り詰め、只ならぬものを肌で感じた。 「……」 観念したんだろうか。押し黙ってしまったアゲハがスッと立ち上がり、硬直する僕の腕を引っ張って無理矢理立たせる。若葉をじっと見据えたその眼は吊り上がり、今まで見たこともない酷く怖い顔をしていた。 「ふふ。いい子ね、二人とも」 アゲハに腕を引っ張られ、布団の上に佇む若葉の前へと導かれる。一歩、また一歩と近付くにつれ、噎せ返るほど濃くなっていく色香。その熟れた果実のような甘い匂いに当てられ、次第に思考回路が麻痺していく。 「……」 美しくも魅惑的な若葉の視線。それに縛られ、抗えず布団に上がり、若葉の前で腰を落とす。

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