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第53話

耳元に寄せられた唇が、悪気のない残酷な言葉を吐く。 「───!」 外耳を擽る、熱い吐息。 肩から溢れ落ちた若葉の横髪が、僕の顔に掛かる。 ……そん、な…… 若葉が、僕の……父親……? 大きく開かれた瞼が、更に持ち上がる。 頭の中が混乱し、脳幹がジリジリと痺れ……真実を上手く飲み込めない。 まるで悪夢。本能的に拒絶しているんだろう。現実味がなく、何処か他人事のような感覚が僕の身体を纏う。 「最初は、僕の遺伝(DNA)を達哉の傍に置ければ、それだけで良かった」 「……」 「でも。二人の仲睦まじい姿を見せ付けられてるうちに、気が変わったの。 僕達三人で、本当の家族になろうって……」 脅える僕の頬に、微かに触れる若葉の唇。 柔らかく触れた所から甘い熱が浸透し、欲望を掻き立てられる官能的な色香が襲う。でも……首元にある刃先のせいで、恐怖が勝り身体の震えが止まらない。 「さくらが一歳の頃だったかしら。 皆が寝静まった真夜中にね、侵入したの。──達哉の家に」 唇を離し、僕の顔を覗き込んだ若葉が上体を起こす。そして僕から離れると、傍にいたアゲハの手を引きそこを譲る。 「あの日は、雨が降っていて……雷も鳴っていたわ。その閃光を頼りに寝室に入り、達哉が眠るベッドを覗いたら……案の定、志津子の姿はなかった。 別室で子供達と眠っていること位、容易に想像できてたから」 「……」 「静かに眠ってる達哉の服を脱がし、上に跨がって愛撫したの。幼い頃からしてきたように、全部。 それから、太く育った達哉のモノを……初めて、僕のナカに受け入れた。 ……達哉のは、熱くて。おっきくて。僕の欲しい所を、何度も何度も突いてくれたわ──」 ……何を、言ってるんだろう…… 理解が追いつかないまま動けずにいる僕を、恍惚した表情のアゲハが見下ろす。 「……凄く、幸せだった…… 達哉が僕の中で放ったモノが、温かく広がっていくのを感じて……やっと、僕達が結ばれたと実感したの。 そう思ったら、これ以上あんな女に達哉を触らせたくなかった。 ……だから、殺しちゃった……」 屈託のない、軽やかな口調。 そこに、一切の悪気など無かったかのように。

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