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第58話
『……随分と威勢がいいなァ、お前ら』
ドスの利いた声色に、ハッと我に返る。
山本を掴む手。振り上げた拳。其れ等をそのままに、声のあった方へと振り向けば──
『……で。テメェか? 工藤アゲハってのは』
オールバック。高級スーツ。サングラス。
咥えた煙草を指に挟み、赤く燃えるその先をアゲハに向けた男は、背筋がゾクッと震える程のドス黒い雰囲気を漂わせていた。
「それが、美沢大翔 ──若葉を囲っているヤクザだ」
「──っ!」
多分、あの人だ。
アパートの外廊下ですれ違った、スーツ姿の男性……
『……お前が……さくら、か……』──額に押し当てられた男の唇の熱や感触が、蘇る。
『……どちら様ですか』
警戒しながら話し掛ければ、煙草を咥え白い煙を吐き出した男が口を開く。
『俺か? 俺は、さくらの父親みてぇなもんだ。
工藤若葉の“オトコ”って言えば、……解るだろ』
まだ半分程残っている煙草を落とし、足で揉み消す。
『一体、どんなご用件ですか』
『ご用件? ハッ、決まってんだろ。息子のさくらを引き取りに来たんだよ』
『その件なら、……既に若葉さんと話がついてます。お引き取り願います』
『──お前、何か勘違いしてねぇか?』
それまでの口調が変わり、不穏な空気が辺りを漂う。
『それは、若葉と取り決めた事だろ? 俺には関係ねぇよな』
『……』
『俺はな、高校 ん頃から若葉の面倒を見てきてやってんだ。タチの悪い奴に目を付けられて、性奴隷になりかけてた所を助けてやったり。手を回して量刑を軽くしてやったりな。
でもよぉ。その見返りが、まだ全然足りねェんだよなぁ』
「……美沢は、さくらの存在を知っていい金蔓にしようと企んでいたんだ。
だから俺が、その分を稼ぐと約束させた。さくらには、一切手を出さない代わりに──」
……それで……ホストに……?
今まで見えていなかった世界が広がり、点と線が次々と繋がっていく。
そうして見えてきた景色は、僕が想像していたものとは全然違っていて。
「……」
僕はずっと、アゲハは光り輝く世界の中で、自由に舞い飛んでいるものだとばかり思ってた。
舞い落ちた先で穢れ、朽ち果てていく僕を……嘲笑っているのだと。
──だけど……
自由な羽根を奪われ、美しい偽物 の羽根を飾り付けられ
美沢 の手中でしか飛べずに、藻掻いていたなんて……
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