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第60話 **

そっと重ねられる唇。 瞼を閉じ、その柔らかな感触を感じていれば、僕の頬に触れていた指先が、顎先、首筋、鎖骨…と線を引くように滑り下りる。 ゾクゾクッ、と擽ったさに粟立つ肌。叩かれた唇の門戸を僅かに開けると、そこから濡れそぼつ舌先が滑り込む。 「……っ、」 逃げずに構えていた僕の舌に、生温かなそれが絡み付く。愛撫される度に耳奥で響く、淫靡な水音。滑り下りたアゲハの手が、二の腕を通って終着地である僕の手のひらに辿り着く。 くちゅ、ちゅ…… 何度も角度を変え、深くなっていく口吻。少しだけ顔を傾げ、舌を絡められたまま僅かに空いた隙間から息を逃すものの……直ぐに追い掛けられ、塞がれてしまう。 重ねた手のひらの指が交差し、きゅっと掴まれると、僕の顔横に移動し上から押さえ付けられる。 ……はぁ、はぁ、はぁ 名残惜しそうに、唇が離れていく。 ゆっくりと瞼を持ち上げれば、鼻先三寸の距離で綺麗な瞳が僕を見つめていた。 「……可愛い」 アゲハの、熱っぽい声。 甘く潤む真っ直ぐな双眸が、僕を捕らえて離さない。 「大好きだよ……さくら」 「……」 ……え…… 熱い吐息と共に囁いたアゲハが、戸惑う僕の首元に顔を埋める。 それは……兄弟として、じゃなくて……? はぁ、はぁ、はぁ…… 熱く湿った舌が柔肌を這う。その度に掛かる熱い吐息。 「──!」 強く吸いつかれた瞬間──チリッと痛みが走る。じんと痺れ、熱いそこにじわじわと生まれる罪悪感。 髪を撫でていた筈の手がいつの間にか僕の平たい胸を揉みしだき、小さな突起を抓んで弾く。 「……」 違う、よね…… この非情な状況を切り抜ける為の、ただの演技だよね。 不安に駆られて手を握れば、それに答えるようにアゲハが握り返す。 アゲハの肩越しに映る、父を殺した犯人(若葉)。狂気に満ち満ちたその眼が、薄闇にぼんやりと浮かんで見える。 「……」 ……大丈夫。 これは、若葉を欺く為の行為だ…… ……はぁ、はぁ、はぁ、 全身から伝導するアゲハの体温。 触れている所全てが、火傷しそうなほど熱くて。 「……っ、ん」 少しだけ主張し芯を持った乳首を、アゲハの熱い舌が絡め取って吸い付き、弾くように舐る。

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