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第61話
熱い……
心とは裏腹に順応していく身体。
若葉から発しているんだろう熟れた果実のような香りが、鼻腔を擽りながら脳幹を甘く痺れさせる。
それに抗うように視界を遮断すれば、敏感になった身体がぴくんと小さく跳ね上がる。
ぴちゃ……じゅる……
鼓膜を支配する淫らな水音。
僅かな吐息。布擦れの音。
触れられる刺激や甘っとろい匂いにも犯され、まるで……媚薬を飲まされた時のよう。
……熱い……
深部から湧き上がる劣情。脳みそや身体がドロドロに溶かされていく。
心はまだ冷静でいられるのに……切り離されて別物になったみたい。
「……ゃ、……」
本能的に身を捩り、アゲハの脇腹辺りを掴んで押し上げる。
「……さくら……?!」
驚く声に反応し瞼を柔く開ければ、頭を擡げたアゲハが僕を覗き込んでいた。
動揺した顔。僕の反応に、僅かながら寂しそうな表情を溢す。
「……ごめん」
……違う。
アゲハのせいじゃない。
アゲハだって、こんな……したくもない行為を強要されているんだから。
「怖かったよな……」
「……」
そんな事ない……
アゲハを見つめながら、静かに首を横に振る。
確かに。樫井秀孝に犯された時のような感覚に陥ったけど。
でも……もう何度も望まない性交を重ねたこの身体は、すっかり汚れてしまっていて。今更勿体ぶるようなものなんかじゃない。
それに、元々は僕の問題だ。アゲハは、ただ巻き込まれただけ。
辛いのは、アゲハの方だ──
「………続き、してもいいか?」
「……うん……」
見つめたまま小さく頷けば、寂しげに口角を持ち上げてみせる。
いつだって、優しかった手……
『さくら……おいで』『もう、大丈夫だから。ずっと傍にいて、兄ちゃんが守ってやるからな』──アゲハのベットに踞って啜り泣く僕を、まだ小学生のアゲハがそっと背面を包み込む。
温かい背中。唯一の居場所。僕が眠りにつくまで、僕の髪を手櫛でゆっくりと梳いてくれる。まるで飼い猫か何かを愛撫するかのように。
……あの優しかった手が、臍の横を通って下肢の間をそっと触れる。
「……っ、ぁ″ん……」
ぴくん、と身体が跳ね、顎先を天に向ければ……
「──!」
はしたなく漏れそうになる声を、アゲハの口が塞ぐ。
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