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××× 「なぁ、三万貸してくんない?」 いつもは昂祐の家に直行するのに。珍しく寄り道なんてするんだと思ったら、嬉しくて。少しだけ浮かれてついて行った先は──昨日、男と待ち合わせをした喫茶店だった。 「……え」 僕の分まで勝手にコーヒーを注文した後、いつもの台詞を吐く昂祐。 いつもと違う状況。いつもと違う金額。 上手く飲み込めなくて、視界が大きく揺れる。 「……僕、そんなお金……」 「だったらウリでも何でもして、金作ってこいよ!!」 背もたれに仰け反った昂祐(こうすけ)が、汚物でも見るかのように冷やかな視線を向ける。 「……」 初めて話し掛けてくれた時の面影を、必死で探す。 いつもそうしてきたように。心の何処かで信じていたくて。 だけど、目の前にいる昂祐には、もう── 「……昂祐」 ふわりと、甘い香りが鼻を擽る。 柔らかくて。優しくて。心の奥底にある大切なものを搔き乱されるような、危険と隣り合わせの芳醇な匂い。 引き寄せられるようにして顔を上げれば、高校生だろうか。制服姿の華奢な男性が艶やかな笑みを浮かべて昂祐を見下ろしていた。 「若葉、さん……?!」 「大翔(タイガ)の代役、僕じゃ不服だった?」 熟れた果実のような赤い唇が、綺麗に動く。 「……い、いえ」 長い睫毛を下ろし、色気を含む瞳。その瞳に見つめられている昂祐は、顔を真っ赤にし、眉尻を下げただらしない表情をしていた。 対面に座る僕に見られているのに気付いた昂祐が、眉間に皺を寄せて僕を睨む。 「おい、早く用意しろ!」 「……う、うん」 その気迫に圧され、つい返事をしてしまった。 ……どうしよう。 昂祐の隣に佇む、若葉と呼ばれた男性をチラリと見上げる。 昂祐が惹かれてしまうのも解るほど、美しく妖艶で。逃げるように席を離れトイレに駆け込むと、ポケットからスマホを取り出して昨日の男に連絡を入れる。 〈理玖です。急にお金が必要になってしまって。また買っていただけますか〉 肌に残る嫌悪感。下腹部の痛み。顔に掛けられた屈辱的な行為が蘇り、息が……指先が震える。 送信をタップすれば、逃れようのない現実が重くのしかかり、心が押し潰されそうになっていた。

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