7 / 29
7
女性のようなしなやかな手が、涙で濡れた頬を包む。柔く瞼を閉じ、僕に迫る唇が、今度は僕の唇を甘く食む。
優しくこじ開けられる唇と歯列。熱くて仄かに甘い舌が滑り込み、奥に潜む僕のそれに絡みつく。
「……んっ!」
口端から零れる、混ざり合った蜜液。拭う余裕もなくキスが深まり、甘い吐息が漏れる。
「ふぁ……」
昂祐に初めてを奪われた時は、こんな気持ちにはならなかった。
甘くて、ふわふわして、蕩けてしまいそう。
角度を変え、何度も咥内を舐られ、その度に下肢や腰の上がキュンとする。
もっと欲しくて。
自ら舌を差し出せば、頬に添えられた滑らかな指先が、産毛を擽るかのように肌の上を優しく撫でる。
「……若葉、さん?」
直ぐ近くで響く声。
その刹那、僕から熱が離れていく。
見上げる若葉の視線を辿りながら振り返れば──目を丸くし、喉を鳴らす昂祐が。
「なに、してんすか……」
「何って、キスだよ。
僕のものになるっていう、誓いのキス」
「……へ?」
昂祐の奇妙な反応に、若葉が含んだように笑う。
「ふふ……、まだわかんない?
この子の心も身体も、持ってるお金も全部、僕のものだって意味。……どう、理解できた?」
……え……
驚いて若葉を見れば、至極意地悪そうな眼で昂祐を睨み上げていた。
「……ねぇ昂祐。大翔 に渡す上納金、早く用意してよ」
妖艶ながら、若葉の突き刺すような視線と放つ声に、昂祐の顔色がサッと変わる。
「……ま、待て……
おい理玖っ! テメェ何裏切ってんだよ。
お前──このまま俺から離れられると思うなよ!!」
一気に怒りが爆発した昂祐は、僕に怒号を浴びせながらも片っ端から電話を掛ける。
しかし、特定の先輩としか連んでいなかった昂祐に、金を無心できる相手は見つからず。例え連絡が取れたとしても、協力してくれそうな人などいなかった。
「いいバイト、紹介してあげようか?」
焦りながら電話を掛けまくる昂祐に、猫なで声を上げる若葉。
その顔は穏やかに微笑んで見えるものの、瞳の奥は酷く冷めていて。不穏な雰囲気を漂わせ、獲物を地獄に突き落そうとする捕食者としての気迫までも感じた。
「掛け子、受け子、出し子、……それとも──」
僕の手からスマホを取り、立たされた子供のように半べそをかく昂祐に、その画面を掲げてみせる。
「この子にやらせた、身売り」
昂祐の顔色がサッと変わり、みるみる持ち上がる二つの瞼。
眼が泳ぎ、唇を震わせながら立ち竦むその様子に、僕が好きだったかつての姿は……もう何処にもなかった。
「アンタみたいに惰性で抱く奴じゃないよ。
……たっぷり可愛がって貰ってきな。待っててやるからさ」
ともだちにシェアしよう!

