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2.
──それは、若葉が高校一年の頃。
当時40代。体毛が濃くガタイの良い、まるで男性ホルモンの塊のような体育教師に、輩に絡まれている所を助けられた。
体育の授業中、足首を捻挫し保健室のベッドへと運ばれた若葉は、その教師から発作的に足先を舐められてしまう。我に返り、罪悪感に苛まれて小さくなる教師の姿を眺めているうちに、嫌悪感と恐怖の向こう側にある妙な優越感が芽生えている事に気付く。
その後、従順な飼い犬に躾けようと、自ら教師に足を差し出すように。
しかし──欲望のレベルに上限などは無く。足を舐めるだけでは満足できなくなっていた体育教師は、遂にそのたがが外れ、若葉に襲い掛かった。
人気の無い棟の空き教室。埃っぽいその机上に若葉の細い身体を押し付け、乱暴に制服の上を剥ぎ取り、白い柔肌に艶めくピンク色の小さな突起を貪りながら、欲望のままに下半身を擦りつけていた──その瞬間。
『………へぇ、面白いコトしてんじゃん』
現れたのは、三年の美沢大翔。
校内はもとより、隣町にも名の知れた札付きの不良。
『とりあえず、記念撮影でも録っておくか』
パシャ、パシャ、パシャ、パシャッ、!
「一枚一万。十枚録ったから全部で十万」
「……」
「あの時の貴方、……ふふ。被害者の私にまで同額請求するんだもの」
支払期日は三日後。
その前日、警告のつもりだろう──校内の掲示板という掲示板にその写真が貼られ、既に十万を支払ったんだろう体育教師の部分には、雑にモザイク処理が施されていた。
「幾らモザイクを掛けたとしても、あの見た目でしょ?」
「……」
「それに……未遂とはいえ、未成年に手を出した性犯罪者。懲戒免職だけじゃ済まなくて、社会的に抹殺──」
「で。俺をここに呼び出した用件は何だ」
「……せっかちね」
ギロッと睨み付ける大翔を牽制するように、若葉が長い睫毛を柔らかく伏せる。そして口の両端を綺麗に持ち上げ、カクテルに浮かぶ氷や桜の花弁の上に飾られたサクランボの軸を抓む。
「さくらが、見つかったの」
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