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第3話〈永斗目線〉
正直、俺はチャラ男が大嫌いだった。
人生を舐め切ったような目つきで、いつだってニヤニヤと薄笑みを浮かべてる軽薄そうな顔だとか。趣味の悪いアクセサリーとか、安いホスト感の否めない髪型とか。
真面目に生きてる俺みたいな人間を小馬鹿にするところとか、必ずと言っていいほど、同じような格好をした奴ら同士で必ず群れている様子だとか。……なんというかもう、全てが嫌いだった。
中学時代、俺は自分がゲイであるということを必死で隠してた。
バレてしまうことに怯えるあまり、男子とも女子ともうまく口がきけなくて、どうしようもない根暗野郎になり下がっていたものだった。
そんな俺を、暇な田舎ヤンキーどもが放っておくわけがない。俺は奴らの恰好の餌食となり、パシられたり、イジられたり、小突き回されたり……とにかく、思い出したくもないような日々を過ごしてた。
そう、だから俺は、チャラついた人種が大嫌いだった。
そんな俺は、高校に入った頃から、ストレスのせいか援助交際にハマってしまった。やや罪悪感はあったけど、俺の家は決して裕福な方じゃなかったから、小遣い稼ぎにもなるし——という理由をつけ、俺は暇を見つけては男を漁った。
初体験は、わざわざ東京から俺に会いに来た三十代のサラリーマン。プロフ画像と違って、その人は若干髪の毛が薄くなりかけていたけど、けっこうガタイが良くて気さくな人で、俺にとっては悪い出会いじゃなかった。
最初、俺はその人にネコとして抱かれたけど、いつしか俺がその人に挿れるようになっていた。それには彼も大喜びだ。その人曰く、「ネコは年取ると、抱いてくれる人がいなくなるんだよね。だからしょうがなくタチに回るんだよ。特に僕みたいにハゲて来ちゃうと、ネコとしての魅力はもうだめだね」と。
ゲイの世界というのは、どうやらそういうものらしい。
でも俺は、挿れられるより挿れるほうが断然気持ちよかったし、俺の倍以上生きてる男が、俺みたいな高校生にわざわざ金を払ってまで、脚を開いて尻を突き出す様に興奮するようになっていた。
自分で言うのもあれだけど、俺は外見はそこそこ良い方だ。しかもタチ希望で相手を募れば、いつだって大盛況。
経験値が増えてくると自分に自信が出て来て、かつては姿を見るだけで恐怖を感じていたチャラ男たちのことも、だんだん怖くなくなった。
その時々で相手を変えつつも、初体験のサラリーマンとも友好的な関係を続けながら、俺は高校を無事に卒業。
さいわい成績だけはすごく良かったので、つまらない過去は全部捨て、俺は国立難関大・英誠大学へ入学。そして晴れて、東京での一人暮らしに成功した。
そして俺は、朋也くんに出会った。
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『はぁ、はぁ……ねぇ、今どんな下着つけてるの……?』
「し、白いブリーフ、です……」
『し、しろっ……!! はぁ、はぁ、いいね……いいよ……ねぇ、お股のふっくらしたところ、ちょっと自分で撫でてごらん?』
「は、はい……。ァっ……ふぅ……」
設定は十四歳。
性に関して抑圧された環境で育ちながらも、身体の火照りを抑えられない不憫な美少年。
テレホンセックス専門店『もしもしかめさん』で働き出して、そろそろ一年。たまたま見つけたこのバイトを、俺は結構気に入ってる。
1ケースにつき時間は三十分、予約制。スタッフはこの店までやってきて、小さな個室に入る。そして、客とテレホンセックスをするというシステムだ。
『ど、どんな感じがする? 教えてくれるかな? あ、手は止めちゃダメだよ』
「なんか……っ……ぅふぅっ……へんです……くすぐったい、けど……でも、ァっ……」
『はぁ、はぁ、はぁっ……いいよいいよ、パンツずらして、じぶんのおちんちんがどうなってるのか見てごらん……はぁ、はぁ、はぁ』
「うわぁ……おっきくなってます……うわ、こんなの初めて……」
『かわいい……きみ、かわいいね……!! 初めてのオナニー、おじさんが一緒にやってあげるからね……!!』
「はい……ありがとうございます」
――十四歳でオナニー未経験者とか、この世に存在するわけないだろ。
と、俺は心の中でそうひとりごちながら、手元に開いていたテキストをめくった。来週提出のレポート期限が迫っているのだ。国立難関・英誠大学において、単位を落とさず無事に進級するためには、勉強時間の確保は必至である。
バイト中に勉強するのにも、そろそろ慣れてきた。目で数式を追いながらも、口では『性に疎い無垢な美少年の喘ぎ声』を演じることができるようになった自分は、なかなかに器用な方だと思う。
客は、好みの設定などを細かく注文することができるようになっている。不愉快な通話はこちらから切ることができるし、客と直接会わなくていいという部分もすごく楽。しかも、電話でうまく対応できているならば、あてがわれたスタッフルームで何をしていてもいいことになっているのも、またとても魅力的なのだ。
「あ、だめ……なんか、へん、あついの、でそうです……っ……!! ぁ、ああっ……ん」
『でちゃう? でちゃうのっ……!? はぁ、はぁ、ハァあぁああ……ぁ、ぅぅうっ……!』
「はぁ……どうしよう……。しろいおしっこ、いっぱい出て……はぁっ……はぁ……」
俺がはぁはぁ言っているうち、客は勝手にイってしまった。俺は気だるげな吐息をマイクに向かって吹きかけつつ、「ぼくの初めて……どうでしたか……?」と掠れた声で尋ねた。しかし手元では、シャープペンシルをさらさらと走らせる。
『さいこう……かわいいね……。今度は、また別の君の初めて……もらっちゃおっかなぁ』
「べつの……?」
『君のお尻に……いいもの入れてあげるからね、楽しみにしててね』
「いいものって、なんだろう……? 楽しみにしてますね♡」
そう言って通話を切ると、俺はインカムマイクを放り出す。
「あと指名一件、か。早く帰ってエッチしたいなぁ……」
まだバイト中だというのに、俺は恋人の顔をもわもわと思い描いていた。
俺は、夜のコンビニで朋也くんを見た瞬間、彼をめちゃくちゃに犯したいと思った。
どこからどうみても軽薄そうなチャラ男である彼が、あられもなく脚を開いて俺のペニスを尻に受け入れ、トロトロにとろけた表情で抽送をせがむ姿が、どういうわけかはっきりと想像できてしまったのだ。
その時の俺は、かつてチャラ男どもに虐げられた過去のせいで、朋也くんに対して歪んだ感情を抱いたんだと思う。
例に漏れず、朋也くんの外見はいかにも軽薄。でも顔立ちはホストっぽく整っていて、パッと目を引くイケメンだ。いかにも、軽そうな女がわんさか寄って来そうな感じがする。
パサッとした金髪、綺麗に整えられすぎた細い眉、切れ長の目にはグレーのカラコン。そして真冬でも小麦色の肌、とってつけたような細マッチョな肉体は、セックスの相手に見せるためだけに鍛えました、みたいな薄っぺらさが否めない。
でも、コンビニでの接客態度はことのほか丁寧で、優しくて、驚いた。酔っ払って女性アルバイトに絡む感じの悪い客相手にも、朋也くんはチャラっと爽やかに相手をして、あっさりその場を収めたりもしていたっけ。
しかも、朋也くんは笑うとすごく可愛い。黙っていると感じの悪いチャラ男なのに、目を細めて八重歯をのぞかせ、子どものように笑う朋也くんの笑顔は、びっくりするくらい可愛いかった。
そんなギャップに気づいてしまってからというもの、俺の中に潜む『朋也くんを犯したい願望』は高まる一方だった。
幸いなことに、彼はどうも俺に興味があるっぽかった。さらにラッキーなことに、彼がゲイバーに出入りしている姿を、偶然見かけてしまったこともこともある。
つまり彼はゲイなのだ。俺と同じだ。でも、ネコなのかタチなのかは分からない。
しかし俺は直感していた。彼は絶対に、ネコの素質がある——全身をゾクゾクと駆け巡る直感に身を任せ、俺は朋也くんのバイト先に通い詰めた。
そして、狙い通りにことは運んだ。
俺は朋也くんにナンパされ、その日のうちに押し倒された。
ぱっと見、自分がいかにもネコっぽい外見をしているということは、俺自身も理解している。細身だし、身長は171センチでそんなに高くはない。それに、顔も可愛い系でおとなしそうだ。だからだろう、朋也くんはのっけから、俺をネコと信じて疑わなかった。
俺を抱く気満々で勃たせてる朋也くんに、いきなり『俺が抱きたい!』なんて言える雰囲気でもなく、俺は久々に受け身になった。
こういうことには慣れているようで、朋也くんのセックスは悪くはなかった。でも、やっぱりこっちじゃ全然物足りない。
俺は、朋也くんをトロトロのグズグズに蕩けさせてやりたい。俺なしじゃ生きていけないってくらいにまで快楽漬けにして、俺を見るだけで勝手に勃起してしまうようなエロい身体にしてみたい……そんな妄想を抱きつつ、俺はいつ、この願望を打ち明けようかとタイミングを窺っていた。
でも、交際関係が終わってしまう可能性を思うと、どうしても言い出せなかった。どうやら、朋也くんなしじゃいられなくなっていたのは、俺の方だったみたいだ。
バカだけど、底抜けに優しい朋也くんの存在に、俺は随分と救われていたらしい。
眠りの深い朋也くんにつけこんで、あんなことをしたのに。朋也くんはどこまでもおおらかに、俺を許してくれた。その上、俺に抱かれることまで受け入れてくれて——
――あぁ、セックスしたい。早く帰って朋也くんくんの中にブチ込みたい……。
眠っている朋也くんを犯すのではなく、起きている状態の彼を抱いたのは、まだ一回だけ。眠っているうちにすっかり俺に馴染んでしまった自分自身のアナルに戸惑いつつも、快楽を受け入れる朋也くんのよがり顔を思い出すだけで、俺はぶるっと身震いしてしまう。
悶々と熱を燻らせた身体を持て余しながら、俺は次の客の相手をするしかなく。
『ご主人様に電話でエロいことを命令されることに快感を得るM男』の相手をしながら、俺は朋也くんを思ってオナニーした。
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