2 / 66

2

その物言いに、直ぐに不快な気分になる 担任も僕が何も言わない事を不愉快に感じているのだろう 開いたノートの横に手を置き、人差し指でトントンと机を叩いた 少し強い風が吹き、窓ガラスをカタカタと揺らす 僕は窓の外を見た 五歳年上の兄、達哉は この学校で一番優秀な生徒と表された それだけじゃない キリッと目尻が少し上がった二重、細い鼻筋、少し薄い唇 笑った時に上がる口角が綺麗で、目元も優しさが滲む 色が少し薄い髪は、艶があり思わず触りたくなる程サラサラとしている ハンサムな上に優しい所があるから 女子に人気で、他校にまでファンクラブができる程だ 「おい工藤、聞いてるのか!」 声を少し荒げる 堪えていた感情を押さえきれなかったようだ 見るからに僕を嫌悪し、見下している 何も答えずにいると、担任は荒々しくノートを閉じた ルックスの良さだけが取り柄の父は、育ちの良い厳格な母に見初められ、結婚した しかし父は浮気性で、結婚前から数人の愛人を抱えていた 僕はそんな父と愛人の間に生まれた子だった 「若葉は、かわいいなぁ」 幸せそうな母の腕に抱かれ 微笑む父を見る 父はあまり家にいなかったけれど 僕はこれが普通の家庭なのだと 信じて疑わなかった しかし、僕が5歳の誕生日を迎えた日の朝 テーブルに小さな誕生日ケーキを残して、母が消えた 僕は母が戻るものと信じて テーブルの前にずっと正座をしていた その日の夜 父が僕に買った玩具を抱えて帰ってきた 僕の様子を見て、ただならぬものを感じ駆け寄る そして、ケーキの横にあった置き手紙を拾い上げ読むと 父は悲しそうに涙を流した 「若葉、今日から君はここで、みんなと一緒に暮らすんだよ」 そこで初めて 父には別に家庭がある事を知った

ともだちにシェアしよう!