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ごめんなさい、ごめんなさい…
頭の中で五才の僕が五月蝿く泣きわめく
その声が響く度に、頭がぐらぐらとし頭痛と吐き気を催す
「……やめ、」
暑い筈なのに寒気がする
床に付いた手が少し大きく震え出して止まらない……
逆らえないと解っているのか
母は僕を卑下した目で見下ろす
「猫はニャーって泣くのよ?」
言うと同時に背中に棒が降り下ろされる
熱い鉄を押し付けられた様に背中に激痛が走り、身を屈めた
その姿に母がくすくすと笑い出す
「ほら、ニャーって泣いてごらんなさい?」
僕の前に母がしゃがみ込み、今度は壊れたおもちゃの様にけらけらと笑う
……この女……
腕力では既にこちらの方が上なのに
五才の僕が、それを邪魔する
「……」
僕が口を開かないと解ると、母の表情がサッと変わった
先程まであった笑顔は消え、まるで能面を被ったかの様に感情が見えない……
そして母は徐にグラタン皿を手にすると、バシャッと僕の顔に中身をかけた
「……っ、」
顔中が濡れ
顎からぽたぽたと床に滴が垂れ落ちる
「……こぼれちゃったわね…
綺麗に舐めとりなさい」
口角をクッと吊り上げ、母が静かに言う
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