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その三匹はとある森で一緒に暮らしている。 「モミの木を用意してクリスマスツリーの準備にとりかかろう」 争いごとはNG、だけど大切なものを守るためなら心で泣いて牙を振る舞う紳士狼のダン。 「クリスマスのご馳走はもちろんお肉、お肉、お肉のフルコースですよね?」 獣肉人肉腐肉、お肉ならなんでも喜んで♪な肉食白兎のラビラビ。 「飾り付けはおいらに任せて! アグレッシブでドレッシーかつラグジュアリーにハイセンスで仕上げるよぉ!」 いっつもラリラリラリラリ状態なやばめのハイテンション小熊のジェラルド。 クリスマスを控えて毎日がホリデイ、森が冬色に染まりつつある、主のお生まれになった日の月。 三匹の元にお客様がやってきた。 「ダンのお住まいってこちらで合ってるかしら」 正確に言うならばダンの元に。 艶やかストレートな毛並みにステップを刻むように優雅で軽やかな足取り、鋭くも病みつきになりそうなグラマラス流し目。 「……ロボか?」 「よかったわ、こちらで正解だったわね」 旧友狼の突然の訪問に驚いているダン、そんな彼にするりと擦り寄る美しい狼ロボ。 ラビラビは思わず拭いていたお皿をがっちゃん落とし、その隣にいたジェラルドは。 「なにあれ! 秘密の過去の匂いがするよぉ!」 「うるさい、黙らっしゃい、口縫いますよ」 「あのロボって狼、男なのに女の人みたいなお話し方してる!」 「小熊と兎ちゃん、ダンのお友達? こんにちは、はじめまして」 「コニチハ! ナイッストゥミーツー!」 「……どうもはじめまして」 ジェラルドの言った通り、ほんっと過去の秘密の匂いとやらがプンプンします……。 その森の住人達は夜になるとヒトの姿になる。 「このハーブティーおいしいわ」 長い髪を緩く縛り、ダンと似たような黒服を身に纏ったロボ、窓際の揺り椅子で悠然と長い足を組んでお茶を味わう。 「おいらが淹れたの! ほんとは隠し味にヒミツのクサもいれたかったけど、それはダンに止められてんの!」 「ヒミツのクサなんかなくたって、十分、ハッピーなお味よ」 懐っこいあんぽんたんのおたんこなすジェラルドをヨシヨシ撫でていたロボ、片耳の違和感に気づいて首を傾げた。 「おいらの片耳、ラビラビにかぢられちゃった!」 「あら、おとなしそーな顔して案外コワイのね、兎ちゃん」 「……どうもはじめまして」 「やーね、さっきからずっとそう、つっけんどんなコはモテないわよ?」 あああああ、うるさいうるさい、このオネエ狼、でも強そうです、下手に飛びかかったらこっちがシチューの具になりそうです。 「本当だ、ラビラビ、さっきから一体どうした、目が血走っている」 「ぼかぁ前からこんな赤いおめめですよ、ダン」 「ときどき歯ぎしりしてないか」 「お肉が恋しいんです」 鈍感な狼紳士に肉食白兎はふんっとそっぽを向いた。 自由気ままな一匹狼のロボはしばらくこの近辺に滞在するという。 ふらりと三匹の家を訪れては会話を楽しみ、時にジェラルドと遊んだり、時にダンを誘って真昼の野原を駆け抜けたり。 ラビラビだけがちっとも面白くない。 ストレスを大いに溜め込んだ肉食白兎、ダンに隠れてこっそり森の奥に罠を仕掛け、まんまとかかった新鮮獲物をむしゃむしゃすることでイライラを紛らわせた。 「兎ちゃん、共食いがお好きなの」 そこへやってきたロボ。 ラビラビはまるっと無視して、むしゃむしゃ、むしゃむしゃ、むしゃり。 昼下がりの薫風に鮮血が香る。 さらさら毛並みを波打たせるロボはクスリと笑う。 「あんまりデブるとダンに嫌われるわよ」 思わずごっくん、ろくに咀嚼していなかったお肉を丸呑みし、ぎろりと振り返れば。 もうそこにロボの姿はなかった。 「縄張り争いで傷ついたダンの体を舌で丁寧に介抱していたロボ、やがてその熱烈な口づけにも似た施しは熱く息づくダンの秘部にまで……」 ジェラルドががりがり土に書いていた腐向け作品を、ぴょんぴょんやってきたラビラビ、ナプキンで口元をふきふきしながら片足でばばばばばっと消した。 「あ! おいらの力作が!」 「腐小熊、小川の水を汲んできなさいな」 「ほーい!」 ジェラルドが野原をぽてぽて駆けてラビラビの視界から消え失せる。 次に現れたのは二頭の狼。 しなやか立派な気品溢れる肉食獣。 追いかけっこするように疾走していたかと思えば、陽射しを吸いこんで艶めく毛と毛を擦り合わせて親しげに戯れる。 兄弟のように上下、ぐるぐる転がっていたかと思えば、恋人のように見つめ合って、互いを甲斐甲斐しく毛づくろい。 なんですか、あれ。 腹が煮えくり返って、せっかく胃袋に溜め込んださっきのお肉ちゃん、ゲロリしそうです。 「よーラビラビ」 「……」 「おーい、ラビラビ」 「……」 「ラビラビってば」 「聞こえていますよ、キル、無視してること察してくださいね、この低脳ぼろくず狼」 「なに見てんだ、ラビラビ?」 ダンの弟狼であるキル、冷たい言葉に何のその、ナプキンを口元に押し当てて気持ち悪そうにしているラビラビの隣へやってきた。 「あ、ロボだ」 顔見知りのオネエ狼を見つけて隻眼キルは片方の目をパチパチさせた。 「ラビラビ、兄貴が元彼と一緒にいるの、よく許してやってんな」 「……げぇぇぇぇ」 「うわっ! ラビラビが吐いたぁ!」 「うぽぉー! なにこれ、なにこれ! これなぁに!? レバー!? タン!?」 「……キルもジェラルドも……噛み殺されたくなかったら、げぼぼ……あっち行ってください、ぅげぼ」 元彼。 あーあ、やっぱりそうですか、そうですよね、だってあんなダン、見たことありません。 あんなにのびのび自由に、楽しそうに、風を切って。 哀しいけれど見惚れてしまいます。 狼本来の姿となった彼はやっぱりきれいなんです。 その夜。 「そういえば、ちょっと痩せたんじゃないの、ダン?」 お招きされた夕食の席にて、ダンの顎にながーい指を添わせて上向かせ、旧友狼の顔を左右交互に覗き込むロボ。 向かい側にいたラビラビは野菜スープすら飲み込むこともできずにスプーンをただガチガチ噛み続け、その隣にいたジェラルドは。 「ねぇねぇ! 昔はどっちがタチでどっちがネコ、ぎゃー!」 「なにしてるの兎ちゃん、ジェラルドのおててにフォーク突き立てて」 「いいんです、面の皮といっしょで手の皮も厚いんです、だからすぐに治ります、はじめまして」 「またそれ」 「ラビラビ」 ダンの呼びかけに、ラビラビ、またふんっとそっぽを向く。 そのままお行儀悪く夕食を退席してお外に出、月明かりの降り注ぐ野原でごろんと横になった。 おなかへったけど食べる気になりません。 愛しのお肉ちゃんも、今は、いりません。 お肉食べないあほあほダンのこと、好きです、なによりも愛しいです。 ダンはぼくのこと、好きって、一度も言ってません。 川で溺れ死にそうになったとき「死ぬときは一緒だ」って言ってくれましたけど。 それはそれで嬉しいですけど。 嬉しいんですけど……。 ロボが去る日がやってきた。 ラビラビが待ち焦がれていた日が。 「お世話になったわね」 「うぽぉー! さみしい! おいらさみしい!」 「アタシも淋しいわ、ジェラルド」 ぴーぴー泣くジェラルドの頭をポンポンするロボ、ジェラルドの隣に寄り添っていたダンに、流し目で、お別れを。 「じゃあね、ダン」 「ああ、達者で、ロボ」 「あなたの今の生き方、それはそれで好きよ、アタシ」 「ありがとう」 おうちの隅っこに立って空腹と苛立ちと虚しさで腹をいっぱいにしていたラビラビ、見つめ合う狼を、見つめていた。 信頼。同胞。絆。 所詮僕は兎です。 見送りは結構と、ロボは軽やかに去り、扉が閉ざされる。 ぴーぴー泣き続けるジェラルド。 佇むダン。 遠くを見つめるその眼差し。 想い人を恋い焦がれるような。 「……あの、ダン」 「今日の夕飯は野菜ポトフの予定だ」 「違います、献立を聞いたんじゃないです、もっと大切なことです」 ロボのこと追いかけてください。 まだ間に合います。 ロボは速いです、でもあなたの足なら。 きっと辿り着ける。 「自由なあなたって、やっぱり美しいです、ダン」 「ラビラビ」 すまない。 そう一言告げて、ダンは、閉ざされていた扉の向こうへ。 おうちを去って行った。 …………あら? …………ぼく、なにを、その場の雰囲気に流されてなんてことを。 「うぽ! 映画みたいだった、かっこよかった! ラビラビもやっぱりおとこだね!」 飛び回るジェラルドを力なく見下ろしたラビラビ。 赤いおめめに、じわわわわっと、涙が。 「うぽ?」 「な……んだか、つい……潔い脇役を演じたくなって……でも、やっぱり、嫌です」 「ラビラビぃ?」 「……うぇぇん……ダぁン……ダンがいなくなったら、ぼく、ぼく……ふぇぇっ……う……っうわぁぁぁぁーーーーん!!」 大泣きを始めたラビラビ、涙がぽろぽろぼろぼろ、ジェラルドはちっちゃな両手を翳して涙の雨を受け止めようとする。 「ラビラビの涙、ハーブティーの隠し味にする!」 「んえっ……ひぐ……っダン……っダァァァァンっ……!!」 「もっと出してぇ! ラビラビふぁいとー!」 「ふぇぇぇぇーーーん」 「何の騒ぎだ、ラビラビ、ジェラルド」 閉ざされていた扉がすぐに開かれた。 戻ってきたダンが呆れ顔で中に入ってくる。 「…………ダン?」 「ラビラビの涙、隠し味にするぅ!」 「涙を隠し味? 嬉し涙の方がきっと良い味付けになる、と思うが」 「……ダン……ロボは……?」 「ロボに追いつく前にお前の泣き声が聞こえたから引き返してきた、小川まで見送ろうと思ったんだがな」 帰ってきたダンにラビラビはぎゅっとしがみついた。 その夜。 「お腹減りました、ダン」 「あ……ラビラビ……」 「いっぱい、いっぱい、飢えてたんです、ぼく……」 あったかふかふか寝床でダンの寝巻を肌蹴させたラビラビ、熱心に熱持つ肌を舌先で堪能する。 ダンのおおきくなったアレに自分のアレを擦りつける。 「う」 「はぁ……おちんちん、くっつけたらきもちいいですね……とろとろになっちゃいます」 「あ……う……」 「はぁぁぁ……好き……元彼のことなんて、忘れさせてあげます……」 「……元彼……?」 「……ロボのことですよ」 「な、んだ、それは……ロボは同胞なる友だ、そんな下世話な話、一体誰が……」 「……あなたのぼろくず弟ですよ、明日、こらしめに行きます」 なーんだ、心配して損しちゃいました。 でもほっとしたら、ますます、盛り上がってきました。 「あ、ぁ……ダンっ」 「あ……っ」 「はぁーー……ダンのここのお肉……ぼくのおちんちん、キュッて締めて……好き……」 ひくひく収縮するアソコに硬くなったアレを深々と突き挿す。 夢中で腰をカクカクカクカク。 溺愛交尾に身も心もとろける。 「あ、またキュッて……何回もキュッて、ダンったら……大好き……好きです」 紳士面が扇情的に捩れる様に胸きゅん止まらず、ラビラビはダンの顔をぺろぺろ。 上唇も下唇もぺろぺろ。 「ッ、ラビラビ……」 「ねぇダン……ぼくのこと好きですか?」 「……、……」 「照れ屋さん、聞こえないです、ちゃんと言って?」 「は……っあ、ラビラビ……っ」 「言って?」 「こ……んなカタチで恋だの愛だの語る、気には、なれないッ」 はぁ、強情ですね、ダンったら。 でも好きです。 大好きです。 「ダン……好きですよ……大好き……うふふ」 死ぬときまでずっといっしょですよ? 夜風に長い髪を翻してロボは呟く。 「あの兎ちゃんみたいに素直に泣けたら、ね……ねぇ、ダン?」 切ない遠吠えは聖なる月夜に溶けて消えた。 end

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