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「そろそろ支度しないとな」
イ草の香る和室の隅、何食わぬ顔でアイロンをかけていたミサオ(仮名/31)は内心どきっとした。
外出の準備を始めた夫のタクマ(仮名/46)の逞しい背中に切なげな流し目で秘かに縋った。
本当は行ってほしくないの、タクマさん……。
今日、タクマは中学の同窓会へ出かける予定だった。
夫に宛てられた知らせのハガキを郵便物の中から見つけた瞬間、ミサオは、今と同じような気持ちに駆られた。
前に蔵で目にした写真、色褪せていながらもそこに写るタクマさんは凛とした眼差しを紡いで、初々しいながらも人を惹きつける魅力に満ちていた。
私の知らない時代を知る人達との集まり。
そこにはかつて貴方を焦がれた人もいるでしょう。
貴方が焦がれた人もいるかもしれない。
「……嫌……」
紛れもない嫉妬を抱いたミサオはいっそのこと同窓会の通知ハガキを燃やしてしまおうかと思った。
『私を許してくれないか』
前妻の血を引く義理の息子に仄かな想いを寄せていた、数多の不貞をはたらいていた罪深い自分を許してくれた夫。
あの人に隠し事をするのはもうやめよう。
草木の生い茂る庭で無心になって落ち葉を掻き集め、焚火の中心へ投げかけたハガキを寸でのところで懐に仕舞ったミサオは、出先から戻ってきた夫へ一日の郵便物を全て手渡した。
『同窓会か』
自然と零れたタクマの笑顔に割烹着の内側でチクリと痛んだ薄胸。
翌日には出席を伝える返信が投函されて、その夜の食卓には夫が苦手とする酢の物ばかり並べて『ありゃりゃ、おっさんとババア、ケンカ勃発中?』と義理息子のパツキン嫁に勘繰られてしまった。
ケンカなんかしていない。
これは私の一方的な独り善がり。
『健康に気を遣ってくれているんだろう』
ほらね。
貴方は何にも気づいちゃいない。
たった一晩だけの同窓会に私がこんなにも気を揉んでいるなんて知りもしない……。
「タクシーを呼んでくれるか、ミサオ」
「私、今アイロン中で手が離せないの」
「そうか、じゃあ自分で呼ぶ、このネクタイおかしくないか?」
ネクタイなんて普段気にもせずに目についたのを適当に締めてるくせに。
「おかしくありません」
「ちゃんと見てくれたか?」
「貴方がちゃんと言ってくれないから嫁がいつまで経ってもまともに家事をしてくれないの、だから私がお洗濯もお食事も、こうしてアイロンがけだってしているの、そのワイシャツ一枚にだって時間をかけて……」
台詞の途中でタクシー会社へ電話をかけられてミサオは唇をきゅっと噛んだ。
「すぐに来るそうだ」
着物に白い割烹着を身につけ、正座し、やたら時間をかけてアイロンがけしている後妻に声をかけ、タクマは玄関へ向かった。
他の家人は出かけていて静かな和風家屋。
広々とした玄関に到着すると、姿見で確認し、意味もなくネクタイを締め直す。
当然ながらミサオの機嫌が悪いのは夫にも伝わっていた。
近々、二人きりで久し振りに遠出でもして気分転換させればいい、そんなことを考えながら丁寧に磨かれた革靴に爪先を滑り込ませる。
「貴方」
タクマはほんの少しだけ驚いた。
今日の見送りはないだろうと踏んでいたので、爪先を慣らしつつ、引き戸に正面を向けたまま告げた。
「今日は先に寝ていなさい、鍵は植木鉢の下にでも置いておいてくれれば、」
「行かないで」
また驚いたタクマは振り返って。
さらなる驚きに五感を射抜かれた。
「お願い……同窓会なんて、嫌……ここにいてください」
壁に片手を添えて何とも心細そうにしているミサオの体からは先ほどまで身に纏っていたはずの衣が殆ど失われていた。
大胆に曝された乳白色のしっとりした肌。
対を成す漆黒のレースランジェリー。
太腿を際立たせるガーターベルト。
何とも頼りない布で覆われた股間の膨らみがひどく悩ましい。
「勝手だって、わかってます……過去に私がどれだけひどいことをしたか……でも、嫌……私の知らない女と会わないで……? 貴方は私から離れないで……」
夕刻、茜色の残光に浸された道端に横付けされたタクシーの気配。
一つ鳴らされた短いクラクションにカラスが呼応して、鳴いた……。
「あ……あン、貴方ぁ……」
「ミサオ……」
「もう、行かない……? 今日、どこへも行かない……? あ、ン……っ私と一緒にいてくれる……?」
「可愛い奴だ」
壁に縋りついたミサオの背に深く重なったタクマ。
頼りないパンティを隔てて肉芯を上下にゆっくり愛撫する。
大きな掌にじっくり擦り上げられて堪らなさそうにビクつく腰。
すぐ背後に迫る夫の股間と尻が擦れ、興奮を共有していることを知らされて、玄関先でさらに昂揚していく。
「どこにも行かない」
「貴方ぁ……」
「もう濡れてるじゃないか、ミサオ……淫乱な奴だ」
「貴方のだって、もう、こんな……」
そのときだった。
引き戸が二回ノックされたのは。
「すみませーん」
顔見知りの運転手の声が磨りガラスの向こうから届き、壁と夫の狭間で身をくねらせていたミサオの頬は一段と紅潮した。
「あ、貴方、断らないと」
「お前が断ってくれ」
背後から身を退かしたタクマをチラリと見上げ、ミサオは、幼子のようにコクンと頷いた。
ストッキングに包まれた足先を出しっぱなしにしているサンダルに引っ掛け、引き戸に近づき、愛撫が尾を引く体の火照りを懸命に沈めて声を出す。
「すみません、あの、今日は……ッ」
いきなり背後から抱きすくめられてミサオは目を見開かせた。
「あ、貴方、少し待って」
「お前が焚きつけたんじゃないか。待てない」
「あ、ひっ」
パンティの内側に問答無用に潜り込んできた手、熟しかけていた肉芯を握りしめ、ぬるぬると巧みにしごき上げる。
太く筋張った愛おしい五指に眼鏡の下でじわりと双眸を濡らし、半開きの唇を弱々しげに震わせ、ミサオは喉を思いきり反らした。
「す、すみません、主人は、急に具合が、っ、ぁぅ……っ」
レース越しに乳首を摘まみ上げられた。
ざらつく生地越しに小刻みに擦り立てられる。
クニクニ、コリコリ、露骨に捏ね繰り回される。
「は、あ、っぁ……ッ……せっかく来て頂いたのに、申し訳ありませんがっ……キャンセルしてもいいでしょ、ぅ、か……っ、はっ……ぁぅ……」
この町に広く顔の知れた地主の血筋に当たるタクマの妻に文句をぶつけるわけにもいかず、お得意様ということもあり、運転手はすぐに了解して去って行った。
無防備にも等しい股間で淫らに動き続ける夫の厚い手。
瞬く間に肌身を汗で湿らせたミサオはかろうじてタクマを見上げ、希う。
「ここじゃ、だめ……いつ誰が来るか……トオルさん達だっていつ帰ってくるか……っはあン……そんなに引っ張ったら、いや……っ擦れて……」
搾り上げるようにパンティを引っ掴まれて左右前後に揺らされ、肉芯が頻りに擦れ、だらしなく濡れていく黒レース。
「いやらしい妻だ」
スーツの内側で速やかに育った肉棒を尻の狭間にぞんざいに押し当て、タクマは、夕日を反射する引き戸にしどけなくもたれたミサオへ囁いた。
「皆が帰ってくるまでこづくりに励むか、ミサオ」
アイロンがけが済んで綺麗に畳まれた洗濯物が容赦なく乱されていく。
「雄●●●、拡がってく、ぅ……っ貴方だけの雄●●●になってる……貴方の硬くて太ぃの……私だけのものになってる……嬉しい……」
自分が畳んだ洗濯物を背中で踏みつけてミサオはうっとり喘ぐ。
片足を大きく持ち上げられ、片足の膝を掴んで固定された松葉崩しの体位で妻の雄孔を堂々と挿し貫く夫の剛直。
うねり蠢く尻膣孔に出入りする太竿には青筋が造形豊かに浮かび上がっている。
膨張しきった睾丸が汗ばむ太腿に当たる度に締まる肉壺。
逞しい男根に内襞がねっとり絡みついてくる。
「早く、早く、早く種付けして……? 貴方の赤ちゃんまた産みたい……あったかい貴方の精子、たっぷり、お腹の奥まで流し込んで……? 今すぐ受精したい……孕みたくて仕方ないの……」
濡れ渡った双眸を艶やかに光らせて健気に強請るミサオにタクマはつい喉を鳴らした。
ワイシャツを身につけたままの上体を屈め、清潔に香る洗濯物を下敷きにして陶然と悶える妻を抱き起こしたかと思えば、そのまま仁王立ち、レースランジェリーに彩られた体を空中で猛然と突き揺さぶった。
「あああン……っ奥まで、ずっぽり、挿入ってる……貴方ので貫かれてる……」
悶絶する雄膣に何度も何度も突き立てられる屈強男根。
手加減なしに打ち鳴らされて花弁を散らしたように赤らむ肌。
狭まり合う肉壁の隙間でさらに膨れ上がり、ビクビクと痙攣を始めたタクマにミサオは爪を立ててしがみついた。
「これ、ぇ……もうすぐ射精しちゃぅ……タクマさんに種付けされちゃうの……っこわい……貴方ぁ……」
「怖い……ッ? 嫌なのか、ミサオ……っ?」
放精に向けて獣さながらに腰を振り立てながら自分を覗き込んできたタクマをミサオもまた見つめ返す。
「違うの……っよすぎてこわぃの、わたし……っだめになっちゃいそぉ……狂っちゃう……っ、っ……ひあっ、あっ……あン……ああああンっ……!!」
凶暴なまでの律動による高速抽挿にミサオは唾液を滴らせて仰け反った。
身も心も弾けるような絶頂の中、ほぼ同時に達したタクマに惜し気もなく注ぎ込まれた子種汁。
結合部が泡立つまでに大量抽入される。
「い、ぃ、ぃ、イイ……っあなたぁ……っいくぅ……いくっ……いくっ……まだ、いくっ……あン……ずっとずっときもちいい……タクマさぁん……すき……あいしてる……」
「私もだ、ミサオ」
洗濯物を踏んづけて互いの唇に夢中になるミサオとタクマなのだった。
***
久し振りに人で賑わう中心街まで出かけるため電車に乗ったミサオだが。
「っ……っ……っ」
混雑する車内で痴漢に遭遇し、あまりにも勝手知ったる風に肌身を這う邪な手に体どころか心まで弄ばれていた。
嫌……どうしてこんなに感じるの……私、タクマさんのものなのに……。
ミサオの嘆きなど余所に痴漢は人妻の下半身を弄び続ける。
ガタンゴトン、単調な揺れを刻む車両の片隅、官能的な曲線を描く尻を揉み立て、スキニージーンズ越しに股座を前後に緩々と撫で、否応なしに熱く息づく肉芯まで掌でしごく。
「ふ……っ……ぅ……ッ」
必死になって声を我慢していたミサオにさらなる危機が訪れる。
ファスナーを限界まで下ろされて、強引に下着をずらされ、何と車中において蕩けかけの肉芯を露出させられて。
愛液にぬるりと塗れていた性感帯をこれみよがしに嬲りものにされた。
乗客でひしめき合う車内で成す術もなく密やかに高みへ追い上げられた。
「ぅ……ぅ……ぅ……ッッ……!」
「ひどいわ、タクマさん」
駅のトイレから手を洗って戻ってきた当の痴漢をミサオは軽く睨む。
「普段、着物ばかり着ているお前がこういう格好をしているのを見たら、つい」
二人で出かけるつもりがタクマに急な電話が入り、先に一人家を出たミサオ。
目的地で待ち合わせようと予定変更したはずが、ミサオの乗る電車に間に合い、妻へのイタズラ心をどうにも抑えられなかったらしい。
過剰に内股となり、バッグを不自然に前に掲げたミサオは眼鏡越しに色香に富んだ困り顔でタクマを見上げた。
「あんなことされたら、私……一回じゃあ、とても……足りない」
「予定変更するか、ミサオ」
「……」
「旨いものを食べる前に一先ずお前から平らげるか」
「お皿まで食べてくれる、タクマさん……?」
まだ明るい時分から刺激的な快楽にのめり込むことになるミサオとタクマなのだった。
ー完ー
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