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38-続・平凡DKのおれがアレを授かりまして

二月最初の土曜日。 「えーと、柚木、です、どうもはじめまして、です」 柚木は合コンに参加していた。 ……比良くんにバレたら怒られるかな……。 合コン参加が決まったのは本日午前中のことだった。 『もしもし、ゆーくん? 今日ヒマだよね? 合コン来れるよね?』 『うう……まだ八時前じゃんかぁ……それに合コンには行かないって、おれ、この間断ったよね……?』 『二人風邪引いて欠員出ちゃったんだよ~、頼むよ~、お願い~』 『えぇぇえ……』 友達からの電話で起こされ、前もって断っていたはずの合コンに再度誘われて柚木は困り果てた。 しかし仲のいいクラスメートの頼みを無下にすることもできずに。 「ごめん、声ちっさくて聞こえなかった、すずきくんでいいの?」 「ゆっ、柚木っ、です!」 現在に至るわけである。 ちなみに冬休みからお付き合いを開始した比良には報告していなかった。 ……お付き合いなんていうのも図々しいかな。 ……お付き合いさせていただいております、かな。 悲しいかな、(へりくだ)った方が自分的にしっくりくる柚木であるが。 パーフェクト男子からの身に余る愛情に未だ慣れていなかった。 そもそも比良以前に誰かとお付き合いした経験皆無、うれしたのし大好きっっ的な感情よりも戸惑うことの方が断然多かった。 『柚木、段差があるから気をつけて』 『柚木、疲れてないか? きつかったらおんぶするから』 『柚木、その荷物重たいだろ、俺が持つから貸して?』 ……なんか付き合ってるっていうより介護されてるっていうか。 いや、でも、まぁ。 時々恐ろしく強引にされることもあるんだけど。 『柚木、まだいけるよな……? 俺、全然足りない……』 十人近くが参加しているカラオケでの合コン中、不謹慎にも隠れ絶倫彼氏のあれやこれやを思い出して柚木は赤くなった。 「すずきくん、おーい、すずきくん」 「えっ? あっ、おれ?」 「すずきくん、何か食べたいのある? 今から注文しようと思って」 「あー……すずき……じゃなくて……」 「何が好き?」 「えっと、エビ天が好き」 素直に回答すれば同学年の女の子らは顔を見合わせてクスクス笑った。 「ゆーくん、エビ天はさすがにないって」 朝っぱらから電話をかけてきた友達の幹事に笑われると、柚木はむすっとしそうになったものの、我慢した。 「……おれじゃなくて比良くん誘えばよかったのに」 「え、なんで急に比良くん出てくるの? つぅか連絡先知らないし? 土曜とか部活なんじゃ? それに比良くんなんかが来たら女子全員そっち行っちゃうじゃん?」 「……」 「そーいや最近、ゆーくん、比良くんに時々話しかけられてるよなー、冬休みに何かあった?」 深読みしたわけでもない、単純に疑問に思ったクラスメートの質問に顔を真っ赤にして柚木は首を左右にブンブン振った。 うん、確かに土曜日は部活だった、比良くん。 いや、でも、まぁ。 寛大で優しい比良くんが欠員補充のために合コンちょっと参加したくらいで怒るわけないか。 友達の友達という女子高女子グループは明るくてノリがよかった。 「すずきくんって性格よさそ」 ずっと名前を間違われていること、正してくれない友達連中に肩を竦めることしばしばであったが。 「おれ、飲み物とってくる」 フリードリンク制であり、他数人の注文を承った柚木は三階の部屋から一階フロント横にあるドリンクバーへ一人向かおうとした。 「コーラと、アイスティーと、コーンスープと、あとなんだっけ……」 「すずきくん、私も行くよっ」 女の子の一人がついてきてくれた。 このコ、歌もうまかったし、スマホで大豆の写真見せたら「かわいい」って言ってくれたし、このコこそきっと性格いいんだろうなぁ……名前は間違えてるけど。 「土曜だからやっぱり多いね」 「わぁ、ほんとだ」 昼下がり、一階フロアでは主に同世代の客らがそれぞれソファに座って部屋が空くのを待っていた。 フロントでは男のみのグループが受付をしている最中だった。 爽やかな白地のジャージに学校名と部活名までプリントされていて、皆身長が高い、フロアで一番目立っている。 中でも、一人、抜きん出て華のある男子がいた。 姿勢正しくピンと伸びた背筋、短め黒髪、ナチュラル上がり眉にキリッと凛々しく整った顔立ち、落ち着いた物腰で周りより大人びて見えた。 「やばい、あの人かっこいい」 「弓道部だって。的の代わりに射貫かれたい」 周囲の女子達が明らかに色めき立つ中、柚木の隣にいた合コン相手も頬を紅潮させていた。 「あの集団、すずきくんと同じ学校だよね?」 「うん……」 「後ろにいる、あのめちゃくちゃかっこいい人、もしかして……」 「うん……あのめちゃくちゃかっこいい人、比良くん……」 そう。 まさか本日出くわすとは思ってもみなかった比良とバッタリ会った柚木。 ドリンクバーからぼんやり見惚れていたら向こうもこちらに気がついた。 「わ」 気がつくなり、比良は部活仲間の輪からすっと抜けると大股で柚木の元へやってきた。 「柚木、何してるんだ?」 真正面から眩い笑顔を一身に浴びせられて柚木は思う。 なにこのひと、かっこいい……。 学校一人気のある生徒に改めて惚れ惚れしてしまう柚木であったが。 「その人は?」 急接近に硬直している隣の女の子について問われ、誤魔化したり嘘をつくのも憚られて、正直に告げた。 「えっと、今、合コンしてて、その相手の千果ちゃん」 秀でた上級ルックスに照れている千果ちゃんを隣にし、未だ見慣れずに同じく照れている柚木の回答を聞いた比良は。 「………………」 数秒間の沈黙と共に柚木のみを真顔で直視した。 容赦ない視線の的にされて息をするのも忘れた柚木は、ゴクリ、息を呑む。 ……い、射貫かれる……。

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