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あれは。
中学一年生の頃、テスト勉強で深夜遅くまで起きていたときのことだった。
ゴンッ
窓に何かぶつかった音が聞こえ、勉強机から立ち上がり、カーテンを開いて外の様子を窺ってみれば。
『みゅ……』
黒い小さな塊がバルコニーに落ちていた。
カラカラと窓を開き、シマは、それを両手に掬い上げてみた。
コウモリとネコが合体したみたいな不思議な生き物を。
『ケガしちゃったのか?』
『みゅー……っ』
そっと撫でてやれば小さな羽をバタバタさせ、親指にスリスリと頬擦りし、やたらウルウルした目でシマを見上げてきた……。
「シマ、思い出したのかよ……?」
ファンタジーにも程がある事態に思考を手放しかけていたシマは、はたと我に返った。
「オレのこと優しく掬い上げてくれたろ……?」
上目遣いにおずおずと見上げてくる魅叉鬼。
ひょっとしてコイツは……?
あのときの不思議な生き物……?
「いや、ありえない、ありえなさすぎる」
「は?」
「あれはテスト勉強中に見た夢だ、次の日には跡形もなく消えてなくなってたし」
「うん。弱ってたオレのこと、ふかふかのバスタオルで包んでベッドに入れてくれたんだよな、シマ」
「……」
「すげぇあったかくてきもちよかった」
もしかすると。
今、この瞬間も。
「俺、今も夢を見てるんだな」
シマのその台詞に。
ちょっと雰囲気が柔らかくなっていたはずの魅叉鬼の吊り目に……みるみる殺気が溢れた。
「こンの……ッ……オレを夢扱いしてんじゃねぇ! これ! よく見ろ!」
激昂した彼がいきなりジッパーを下ろしたかと思うとパーカーをがばりと半分脱ぎ、シマは、目を疑った。
パーカーの下が素肌であったことも驚きだが。
派手目立つ白アッシュの髪の狭間から小さなクロミミが生えていて。
背中にはコウモリじみた羽が……。
シマはすかさずパーカーを着せるとジッパーを喉元まできっちり上げ、素早くフードをかぶせた。
五秒ほどの出来事だっただろうか。
周囲を見回し、他の通行人はスマホや会話に夢中で気づいていないとわかると、胸を撫で下ろした。
「ッ……痛い、なんだ急に」
唐突に両頬を容赦なくつねられ、周囲から目の前の魅叉鬼に視線を移し変えてみれば。
「痛いだろーがッ……夢じゃないってわかったかよ……!?」
半泣きな吊り目で必死になって睨んでくる彼で視界は埋め尽くされた……。
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