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魅叉鬼はへっぽこ淫魔だという。 淫魔界の学校では常に成績不振、落ちこぼれのレッテルを張られて周りの淫魔からもバカにされっぱなしだという。 「ちょっと待て、淫魔界ってなんだ……」 「この人間界の裏側にある世界のことに決まってンだろーが」 「裏側……」 「んなことはどーでもいーんだよ!!」 シマにとっては大いにどうでもよくないポイントであったが、魅叉鬼は仏頂面で話を続けた。 「最終課題、突きつけられたんだよ」 その最終課題とやらをクリアしなかったら。 魅叉鬼は永遠の落ちこぼれという烙印を押され、淫魔界とやらで最下層の生活を強いられるという。 「だから、オレ、シマに会いにきた……」 現実世界も異世界も、どこもかしこも世知辛くシビアだと達観しかかっていたシマは、目の前で項垂れた魅叉鬼に首を傾げた。 外で淫魔と立ち話も何なので自宅アパートに久方ぶりの客人として彼を招いた。 家具は最低限に、整理整頓されたワンルームにちょっとばっかし西日色の静寂が流れていたかと思えば。 「その最終課題ってやつは……人間と交尾しなきゃなんねーやつで……」 「交尾?」 フードを外して外気に曝されていたクロミミの片方だけがピクピクと動いた。 ……なんだあれ、可愛いな……。 「交尾できたら、金持ちの家畜にならずに済むし、檻に入れられることもねーの……」 ……よくあんなピクピク動くな、しかも片方だけ、ある意味器用というか、とてつもなく可愛いというか……。 「……はい? 家畜? 檻?」 クロミミの片方ピクピクに目を奪われていたシマは聞き捨てならない内容に驚いた。 「ひどすぎないか、それ、お前の世界ってそんな非人道的なルールが(まか)り通ってるのか?」 一瞬、何を言われたのかわからなかった魅叉鬼だが、俯きがちにコクンと頷いておいた。 シマの向かい側であぐらをかいて、萌え袖状態の指先を口元にあてがって、部屋の隅っこに視線を縫いつけて。 「だから……シマにくれてやろーと思って……オレの純潔」 「いらない」 即答された淫魔は一瞬で激情した。 「なんでだよ!!??」 「お前の境遇に同情はするけれど、交尾、うん、セックスはできない」 「ッ……なんでだよ!!!!」 シマは驚いた。 いきなり魅叉鬼にタックルされて床に押し倒された。 馬乗りにまでなって全力で睨んできた魅叉鬼を咎めるような眼差しで見上げれば、グーで何回も胸を叩かれた。 「痛いって」 「どすけべのくせに!!」 「はい?」 「中二でセンパイ相手に童貞卒業したかと思えば! 後はとっかえひっかえ! ヤリ三昧の日々だったじゃねーか!」 「お前な、言い方……ていうか、なんで俺の性歴を知ってるわけ」 意外と締まったお腹に乗っかった魅叉鬼は、叩かれないよう両手首を掴んだシマを恨みがましそうに切なそうに見つめた。 「見てた、ずっと見てた、シマのこと」 まだ不完全な羽で夜の人間界を危なっかしげに興味津々に探索していたら、突風に弄ばれ、窓に激突して。 ショックと痛みと不安で怯えていたら優しい両手に掬い上げられた。 『ほら、ここなら大丈夫。安心していいよ』 ……ひとって、ひとって、こんなあったかいんだ。 ……あったかくて、体中、とろとろしてくる。

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