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40-続・続・平凡DKのおれがアレを授かりまして
「柚木とハネムーンに行きたい」
比良くん、とうとうイカレちゃった、失礼ながらも柚木はそう思った。
「ハネムーンに行きたい」
「に、二回も言った」
「行こう?」
「いやいやいやいや、おれと比良くん、け、け、結婚してないし? ハネムーンって新婚旅行のことでしょ? 新婚さんが行くやつでしょ?」
高校三年生になった二人は現在昼休み中、いつものように空き教室でランチをとっていた。
明日から大型連休を控えた五月上旬。
窓から覗く空はいつにもまして青く澄み渡り、常緑樹の葉は艶々と輝いて見えた。
「行こう、柚木」
オフホワイトのサマーセーターを腕捲りし、チャコールグレーのズボンを履いた比良は机に頬杖を突いて柚木ににっこり笑いかけた。
食べるのが遅い、購買で購入した天丼の米粒をほっぺたにくっつけた、毛玉つき灰色のベストを着用した柚木はエビ天の尻尾をゴクリと呑み込んだ。
……比良くんって五月の申し子?
……爽やかの化身?
「俺と柚木で新婚さんになってハネムーンに行こう」
比良くん、これ、冗談言ってるんだろな……。
よくわかんないけど、話、合わせてあげようか……。
「ハネムーンかぁ。ど、どこがいいかなぁ〜」
すでに食事を終えていた比良は、机を挟んで向かい合う柚木に楽しげに提案してみせる。
「綺麗な海の見えるところがいい」
「ああ、海……」
「二人で砂浜を散歩したり」
「さ、散歩……」
「一緒に夕日を見たり」
「ゆ……」
はずいわ!!
そんなん、比良くんにしか言えんわ!!
おれが言ったらさぶくて初夏が真冬になるわ!!
柚木が脳内で関西弁ツッコミを入れたことも知らないで、比良は、夢見るような口調で続ける。
「この間も言ったけれど弓の方は火曜から引退試合に向けた練習が始まるんだ」
今回のゴールデンウィーク、暦の上では土曜日から水曜日までの五連休になっていた。
「だから明日の土曜から月曜、二泊三日、二人きりでずっと過ごそう」
「う……うん……?」
「片道二時間。午前中に出発すれば向こうでゆっくりできる」
「ん……?」
なんかいやに具体的でない?
「土日月、空けてくれてるか?」
凛とした眼を真っ直ぐ向けられて反射的に柚木は頷いた。
「よかった」
「えーと、比良くん? その、何するのか聞いてなかったけど、もしかしてどこか旅行に行くの?」
キョトンしている平凡男子に比良は手を伸ばす。
ほっぺたについていた米粒をとり、さっと食べ、あわあわしている極々平々凡々な恋人に言う。
「そう。俺と柚木でハネムーンごっこしよう」
……なに、そのごっこ遊び。
……おれにはレベル高すぎるよ、比良くん。
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