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「えぇ……? マジでココなの、比良くん?」
「そうだよ」
「これって別荘? コテージってやつ?」
「ここはレンタルハウスなんだ」
「れんたるはうす……」
広い砂浜に穏やかに鳴り渡る潮騒。
晴れ渡る青空の下で煌めく大海原。
夏になれば多くの観光客で賑わう国内ビーチリゾート、緑豊かな海岸線沿いにそのレンタルハウスは建っていた。
デザイン性に富んだモダンな白亜の外観。
こぢんまりした別荘の雰囲気が漂っている。
鍵の受け渡しは近くにあるレンタルハウス運営会社の案内所でスムーズに行われた。
「すごい」
二階のベッドルーム、ラウンジスタイルのリビングダイニング、どちらも開口部を大きく開放的にとっており、贅沢な眺望をダイナミックに楽しめる構造になっていた。
「すぐ近くに海があるみたい、すごい」
壁一面の窓にぺったり張りついて柚木は感嘆する。
……あれ?
……あんなところにお風呂がある?
中庭のウッドデッキテラスに設置された、日の光に照らされて白く輝く露天ジャグジーを発見し、目を疑った。
「比良くん、あんなところにお風呂あるよ、外から見えちゃうじゃん」
「こっち側は海に面してるから大丈夫だよ。あの岩場で釣りをする人がいたら見えるだろうけど」
電車とバスを乗り継いでやってきた海辺の街。
遠くの水平線に夢中になっている柚木に比良は微笑んだ。
「あ、比良くん……」
ゆったりめオーバーサイズの七分袖シャツ、ストライプ柄で足首の見えるクロップドパンツを履いた比良にバックハグされて。
相変わらず全身ファストファッション地味色コーデの柚木はカチンコチンになった。
「み、見られるよ、外から」
ビンテージ感のある古木調の床、寛ぎ放題な大きめソファ、無駄に多いクッション。
普段と一味違う時間を過ごせるよう、非日常でいて快適な空間を彩るインテリアの数々。
「今、釣りをしてる人もいないし、誰にも見られない」
真っ昼間から溺愛スキンシップに至った比良に照れまくり、むず痒さがどんどん溢れてきて、柚木は縮こまった。
「に、二階も見たい、二階に行きたい、おれ」
「柚木、もう二階に行きたい気分なのか?」
「へ……?」
自分よりも逞しい腕の中でもぞもぞ動き、真後ろに迫る比良を怖々と仰ぎ見れば。
「もうベッドに行きたいの?」
くすぐったそうに笑う男前彼氏からおでこにキスされた。
「ひっ」
柚木はガチの悲鳴を上げる。
前髪が目元にかかりそうになっている、いつになく頬が緩みがちな、平凡男子を溺愛したい欲がこれでもかと高まっている比良の熱い眼差しに心臓が溶けそうになった。
「比良くん、おれのことそんな見ないで」
「そんなの無理だ」
即、拒まれて、さらに顔を近づけられて。
柚木は酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせた。
「それ、俺に甘えてるのか?」
「違うっ……比良くん、なんか……いつも以上に……積極的……ですね」
「だって柚木と別々のクラスになったから」
まだクラス替えのこと引き摺ってるんですか、このイケメン。
「今までと比べて一緒にいる時間が明らかに減った」
あちこちへ視線を泳がせている柚木の挙動不審ぶりを一切気にせず、比良は、正直に告げる。
「教室に柚木がいないと淋しい」
ヒィィ……おれの心臓、お願いだから溶けないで、カタチ保って……。
「いないってわかっているのに、時々、授業中に柚木のこと探してるんだ」
「さ、探してもいませんから、いたらドッペルゲンガーだから、それ」
「だから」
今度はほっぺたにキスされて。
柚木の心臓はグツグツ沸騰しそうになった。
「せめてこの三日間だけは俺の視界にずっといて」
あ。
キャパオーバーだ、これ。
この三日間で、おれの心臓、跡形もなく溶けてなくなっちゃうかもしれない。
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