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第16話 女だらけの休憩大会

午睡、所謂お昼寝が十二時半から順次始まる。 僕も子ども達を寝かせていると、真琴先生が「休憩行ってきていいよ」と言ってくれたので寝静まったクラスを後にした。 それぞれのクラスから入れ替わりで、休憩室へと先生達が入っていく。 僕は実習生なので、どうしたものかとオロオロしていると丁度やって来た他の先生が「入っていいよ」と誘ってくれたので、後について入室したのだった。 「お疲れ様~」 「お先に~」 挨拶の後に一際大きな声が上がった。 「あ~っ、来た来た‼」 そう言われて気がつくと、先生達がみんな僕を見ていた。 視線の集中に僕は恥ずかしさと戸惑いで、アワアワと慌てふためく。 狭い畳敷きの休憩室には、ちゃぶ台がひとつ。 それを囲むようにして、七人の女の先生がお茶をしていた。 女の先生ばかりだから、何だか緊張する。 「大夢先生だったよね?先生、何飲む?」 「はい。このコップ使っていいから」 戸棚からコップを取り出して僕に渡してくれる。 「この中から好きなの選んで、自分で入れて飲んでね」 そう言われたので、僕は幾つかある飲み物の中からカルピスを選んでコップに入れた。 うわっ、冷たい‼ 喉がカラカラだったから、嬉しい。 僕がゴクゴク飲むと「おかわりしても、いいからね」と言われたので遠慮なく二杯目を注いだ。 「大夢先生、初日はどう?」 「はい。暑くて大変だし、分からないことも多いので…でも楽しいです!」 その後も先生達に質問されたり、比較的気兼ねなく過ごせた。 丁度、若い話好きな先生ばかりだったからかな? 「そういえば、大夢先生さ!」 「?」 思い出したと言わんばかりに、ひとりの先生が声を上げた。 なんだろうと、僕はお菓子をポリポリ食べながら首を傾げた。 「実習メインで『いちごぐみ』へ入るんだよね⁉」 「あ、はい。そうですけど…?」 僕が頷くと、その場に居た先生達が一斉に「あぁぁ~‼」と、のたうち回りだした。 一体、急にどうしたのだろうか? 余りの悶えように僕は一瞬目が点になってしまった。 「…あの。『いちごぐみ』は何かあるんですか?」 僕が遠慮がちに訊くと、先生達が顔をガバッと上げてこっちを見た。 「あのねぇ、大夢先生が今度入る『いちごぐみ』の担任・月森彌先生なんだけど‼」 えっ、それって絢香ちゃんの言っていた例の? もしかして、かなりヤバイとか怖い先生とか⁉ やだやだ、やめてよ~‼ そんなんだったら僕、実習辞めたいんだけど⁉ 「超カッコイイんだよ~‼」 「イケメン、イケメン~‼本当のイケメンなんだよ‼」 「キャーッ‼思い出すだけで、ダメかも私‼」 「大夢先生、羨ましいーッ‼」 そう言うなり一斉にジトッ…と、僕を見る先生たち。 「うっ…」 こ、困ります。 「えぇっと~真琴先生や透先生もイケメンだと思うんですけど…」 僕がそう言ってみると、先生達は顔を見合わせた。 「まぁね~そうなんだけどぉ」 「真琴先生は付き合ってる人が居るみたいだし、結構勇気居るかもね」 勇気? 「透先生もいいんだけど、ちょっと、ねぇ?」 「うん。敵わない相手がいるからね…」 二人とも恋人が居るということか。 そしたら自動的に、フリーらしい彌先生という事になるだな。ふむ。 「あぁん、彌先生‼」 「今日はおやすみなんだよね~‼」 「一日最低一回は顔を見たいし、話したい~‼」 言うなり、再び溜息をつく先生達。 そうして休憩の時間は、過ぎ去っていったのだった。 放課後。 真琴先生と二人で今日の反省会をした。 その途中、昼間の恋人の存在を思い出して気になってしまう僕。 いけない、いけないと集中力を高め耳を傾けた。 「お疲れ様。大変だっただろうけど、明日も頑張って」 「はい。ありがとうございました」 しかし、初日が如何に幸せだったか…。 僕は後々苦労するとも知らずに、呑気に夜はベッドに入って目を閉じたのだった。

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