16 / 33
第16話 女だらけの休憩大会
午睡、所謂お昼寝が十二時半から順次始まる。
僕も子ども達を寝かせていると、真琴先生が「休憩行ってきていいよ」と言ってくれたので寝静まったクラスを後にした。
それぞれのクラスから入れ替わりで、休憩室へと先生達が入っていく。
僕は実習生なので、どうしたものかとオロオロしていると丁度やって来た他の先生が「入っていいよ」と誘ってくれたので、後について入室したのだった。
「お疲れ様~」
「お先に~」
挨拶の後に一際大きな声が上がった。
「あ~っ、来た来た‼」
そう言われて気がつくと、先生達がみんな僕を見ていた。
視線の集中に僕は恥ずかしさと戸惑いで、アワアワと慌てふためく。
狭い畳敷きの休憩室には、ちゃぶ台がひとつ。
それを囲むようにして、七人の女の先生がお茶をしていた。
女の先生ばかりだから、何だか緊張する。
「大夢先生だったよね?先生、何飲む?」
「はい。このコップ使っていいから」
戸棚からコップを取り出して僕に渡してくれる。
「この中から好きなの選んで、自分で入れて飲んでね」
そう言われたので、僕は幾つかある飲み物の中からカルピスを選んでコップに入れた。
うわっ、冷たい‼
喉がカラカラだったから、嬉しい。
僕がゴクゴク飲むと「おかわりしても、いいからね」と言われたので遠慮なく二杯目を注いだ。
「大夢先生、初日はどう?」
「はい。暑くて大変だし、分からないことも多いので…でも楽しいです!」
その後も先生達に質問されたり、比較的気兼ねなく過ごせた。
丁度、若い話好きな先生ばかりだったからかな?
「そういえば、大夢先生さ!」
「?」
思い出したと言わんばかりに、ひとりの先生が声を上げた。
なんだろうと、僕はお菓子をポリポリ食べながら首を傾げた。
「実習メインで『いちごぐみ』へ入るんだよね⁉」
「あ、はい。そうですけど…?」
僕が頷くと、その場に居た先生達が一斉に「あぁぁ~‼」と、のたうち回りだした。
一体、急にどうしたのだろうか?
余りの悶えように僕は一瞬目が点になってしまった。
「…あの。『いちごぐみ』は何かあるんですか?」
僕が遠慮がちに訊くと、先生達が顔をガバッと上げてこっちを見た。
「あのねぇ、大夢先生が今度入る『いちごぐみ』の担任・月森彌先生なんだけど‼」
えっ、それって絢香ちゃんの言っていた例の?
もしかして、かなりヤバイとか怖い先生とか⁉
やだやだ、やめてよ~‼
そんなんだったら僕、実習辞めたいんだけど⁉
「超カッコイイんだよ~‼」
「イケメン、イケメン~‼本当のイケメンなんだよ‼」
「キャーッ‼思い出すだけで、ダメかも私‼」
「大夢先生、羨ましいーッ‼」
そう言うなり一斉にジトッ…と、僕を見る先生たち。
「うっ…」
こ、困ります。
「えぇっと~真琴先生や透先生もイケメンだと思うんですけど…」
僕がそう言ってみると、先生達は顔を見合わせた。
「まぁね~そうなんだけどぉ」
「真琴先生は付き合ってる人が居るみたいだし、結構勇気居るかもね」
勇気?
「透先生もいいんだけど、ちょっと、ねぇ?」
「うん。敵わない相手がいるからね…」
二人とも恋人が居るということか。
そしたら自動的に、フリーらしい彌先生という事になるだな。ふむ。
「あぁん、彌先生‼」
「今日はおやすみなんだよね~‼」
「一日最低一回は顔を見たいし、話したい~‼」
言うなり、再び溜息をつく先生達。
そうして休憩の時間は、過ぎ去っていったのだった。
放課後。
真琴先生と二人で今日の反省会をした。
その途中、昼間の恋人の存在を思い出して気になってしまう僕。
いけない、いけないと集中力を高め耳を傾けた。
「お疲れ様。大変だっただろうけど、明日も頑張って」
「はい。ありがとうございました」
しかし、初日が如何に幸せだったか…。
僕は後々苦労するとも知らずに、呑気に夜はベッドに入って目を閉じたのだった。
ともだちにシェアしよう!