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第19話 月森 彌という男
とにかくカッコ良かった。
カッコいいというよりも美形とか、美男子、美青年とか、そういう言葉の方がしっくりくる。
ぴったり当てはまるんだ。
その長身は豹のようにしなやかで、百八十五近くありそうだ。
だけど、僕みたいにヒョロッとしていない。
自然な栗色の髪の毛は、後ろの方に軽く流してある。
前髪から覗く双眸は涼しい色を湛えているけど、きっぱりとした整った綺麗な形の眉が意志の強い面もあるのだと暗に示していた。
モデル、俳優…ハリウッドスターを目指してもいいくらいだ。
この人が彌先生…。
そんな彌先生は、僕を気にする様子も見せずに裕太くんに声を掛けた。
腰を落として二人に目線を合わせると、優しい顔で話を聞き始めた。
二人以外の子ども達を遠ざけて、真摯に話に耳を傾けている。
その表情が次第に綻んでいった。
「先生‼」
「…彌先生」
絢香ちゃんが彌先生に抱きついた。
裕太くんも彌先生の顔を見ている。
それから彌先生のひとことで、二人はお互いに「ごめんね」を言った。
裕太くんと絢香ちゃんは、何がおかしいのか笑い始める。
さっきの喧嘩はどこへやら?
絢香ちゃんは彌先生に抱きついてスリスリしている。
裕太くんは僕の側に来て、腰に抱きついてニコニコしていた。
これも彌先生が話を上手くしたからだ。
「おはようございます。実習の先生ですよね?」
裕太くんの嬉しそうな顔を見下ろしていると、彌先生が僕に挨拶をしてきた。
「お、おはようございましゅっ‼」
あうっ‼
僕が先に挨拶しなくちゃいけないのに~やっちゃった‼
慌てて挨拶をした為、噛んでしまって恥ずかしい。
おまけに僕の慌てぶりに彌先生がクスッと笑ったものだから、顔がカーッと熱くなった。
きっと今、顔が真っ赤になっているに違いない。
顔が上げられずにいる僕の顔を下から覗き込む裕太くん。
お願いだから、やめて…。
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