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第20話 フェロモン過多

僕が裕太くんの顔をチロリと見ていると、彌先生が話を始めた。 「名前は確か…」 しまった‼自己紹介していなかった。 「麻生です‼麻生、大夢です…」 勢いづいて名乗ったのが恥ずかしくなって、僕は上げた顔をまたまた下に向けてしまった。 丁度お辞儀した形になるから、まぁいいか。 「大夢先生か。そうだった!」 なんだか思い出したとでもいうように彌先生が言うので、顔を上げた。 「所長と主任から聞いていたのに、ごめんね」 ううっ。 最後の「ごめんね」の言い方に、思わず口から出そうになった。 大人の男の人との接点自体少ないとはいえ、テレビドラマでもありそうなものだ。 だけど、今さっきの彌先生の言い方は女の子でなくても悶えてしまう破壊力があった。 この先生が皆から人気なのも頷けるかも。 「今日で『りんごぐみ』での実習は終わりだったよね?」 「あ、はいっ!部分実習して明日からは『いちごぐみ』で…」 そうなんだ。 明日からは、この目の前に居る彌先生のクラスへ入る事になっている。 「僕はいちごぐみの副担任なんだ。だから、困った事があったら遠慮なく相談して。フォローするから」 聖なるオーラでも放っているのか、後光が射しているかの様に見える。 本当に良い先生だ‼ 明日から『いちごぐみ』に入るのが、物凄く楽しみになってきた。 「あ、ありがとうございますっ。頑張ります‼」 僕が勢い込んで返事をすると、彌先生が目元を緩めた。 「頑張るのはいいけど、無理だけはしないように」 顔が近づいて来たかと思うと、恐ろしいほどの目の前で「ね?」と言われた。 口調からすると確認しているだけの様だけど、無駄にフェロモン過多だと感じずにはいられない。 確認だけに、フェロモンは要らないと思う…。 それは僕だけではないみたいで、登所してきた保護者が何人も顔を赤くして僕と彌先生を見ていた。 「あぁ、気がつくのが遅れてすみません。三崎さん、金尾さん、一橋さん、おはようございます」 固まって身動きとれなくなっていた僕とは違い、彌先生は自然な流れで挨拶をした。 何事も無かったかの様に。 確かに何も無かったけど、変な色気を纏わせて迫られたのだから僕に現実みは無かった。 「麻紀ちゃん、寧々ちゃん、萌ちゃん、おはよう。元気に来たね」 保護者だけでなく、子どもたちもポヤ~と彌先生を見上げていた。

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