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第10話 気持ちが大切

暑い。 本当に六月かというような暑さだった。 僕は額から伝う汗をグイッと拭った。 昨日の雨はどこへやら、夏かと思うほど暑い。 園庭のあちこちにある木は雨のせいで葉を落としている。 その為、園庭の掃除は思ったよりも大変な物だった。 いつもやっている先生は凄いな~なんて思って美由紀先生の方を見たら、保護者と話をしていた。 持っている竹箒は一向に動く気配を見せない。 こうなったら自分がやるしかないか。 この暑さに加えて、僕は少しウンザリしていた。 「先生、見てみて~‼」 「俺の方も見て‼」 さっきから僕の周りにはたくさんの子どもたちが集まってきていて、確実に増えている。 「前回りできるよ!」 「私もできるよ~!」 「先生、僕逆上がり出来るんだ~!」 その子どもたちが一斉に声を上げる。 ちょうど鉄棒の側を掃いていた為、みんな自分の技を見てくれと次々と鉄棒にぶら下がる。 「わーっ、凄い‼」 始めこそ良かったけど、僕の経験不足から殆ど同じ声かけしか出来ない。 これを何度も言っているのだ。 繰り返しているうちに自分でも言い飽きてきて、ウンザリとしてきた。 それは自分の実力不足で自業自得なんだけど、それで子どもたちを迷惑がるのは保育士としてダメなんだろう。 こんなんじゃ保育士になれないよ。 ダメだ、ダメだ‼こんな気持ちで子どもに関わるなんて‼ 反省、反省。 僕は気持ちを持ち直して、子どもの顔を見る。 「先生、見て~!」 「本当だ!」 気持ちを入れ替えて見てみると、子どもが目をキラキラさせて僕を一心に見てくれている。 子どもなりの一生懸命でその時を見せてくれているし、見て欲しい気持ちは本物で。 その時を大切にしてあげなくちゃな。 苛立っていた気持ちが落ち着くと、僕はフムフムとみんなの様子を見守って自然と声かけが出来ていた。 「あっ、透(とおる)先生だ…‼」 「本当だ‼」 そうこうしていると、数人の子どもたちが声を上げて門の方を見た。 「透センセー‼」 ここから少し離れた所にある正門からは、保護者と子どもがやって来ている姿がある。 そんな中で、ひとりポツリと浮いた人が居た。

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