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第48話
相葉とともにマンションに帰ると、なんだかどっと疲れが押し寄せてきた。
長い時間ハーレーに跨っていたせいで、万全でなかった腰に直に響いたせいもあり、腰を庇うようにしてソファに寝転んだ。
「そこにいるとどうせ寝ちまうから、さっさと風呂入れ。」
相葉もなんだか疲れた様子で、煙草を吸いながら椅子に背をつけている。
「んー……。」
「1人で入れないなら一緒に入ってやろうか?」
笑みを含んだその言葉に無言で身体を起こすと、相葉を睨みながら浴室に向かう。
砂羽と最後にセックスしてから、明日でちょうど1週間経つ。
胸につけてもらった甘い痕は全て綺麗に消えてしまい、砂羽との関係を示すものは跡形もなくなってしまった。
寂しさを感じながら肩まで湯に浸かると、ため息と一緒に砂羽の顔を思い出す。
俺のことを抱いてくれた時の表情のひとつひとつを丁寧に思い返していると、視界が歪む。
泣き虫だと相葉に笑われたが、本当にその通りだと思う。
もっと強い人間になりたい。
砂羽の2番目でも満足できるくらいに、強い人間になりたい。
そしたら、この胸の痛みも気にすることなく、砂羽とこれからも繋がっていられるのに……。
そんなことを考えながら組んだ腕に顔を埋めていると、頭に拳が落ちてきた。
思わず顔を上げると、眉間に皺を寄せた相葉が怖い顔で睨んでいる。
「え?」
「やけに静かだと思って見にきてみたら、こんなとこで寝てんじゃねえよ。」
呆れた声でそう言いながら、腕を引っ張られて立たされる。
どうやら相葉が入ってきたことも分からないくらい眠り込んでいたらしく、無理やり立たされると身体がふらつく。
抱きかかえるように椅子に座らせられると……
ぬるいシャワーを浴びせられ、この前と同じように髪を洗われる。
相葉の服は俺を抱き寄せたせいでびしょ濡れで、そのことを指摘しても「うるさい」と一喝されてしまった。
身体の隅々まで丁寧に洗われ、タオルで身体を拭われると、いつもと同じように丁寧にドライヤーをかけられる。
濡れたままの格好が響いたのか、派手なくしゃみを繰り返す相葉が気になったが、何か言おうとすると睨まれる。
仕方なく相葉にされるがままになっていると、そのまま抱きかかえられるようにベッドまで運ばれた。
「寝ろ。」
洟をすする相葉のことを見上げると、布団を肩まで掛けられてスマホまで没収された。
「風邪……ひいたんじゃね?」
相葉の手が俺の頬に触れると、その手は今まで感じたことないくらい熱くなっている。
風呂上がりの肌にも熱く感じるってことは、熱でもあるんじゃないかと額に手を伸ばすと、その手をふいっと避けられる。
「お前みたいに柔に出来てない。」
「だって、くしゃみ凄いし……。」
俺が指摘した途端に、相葉が再び派手なくしゃみをする。
「うるさい。」
洟を啜りながら気だるそうに髪を掻き、俺のことを鋭い眼光で睨む。
その視線に若干ビビりながらも、おずおずと声をかける。
「濡れたまま風呂に入ったからじゃない?」
濡れたまま俺を風呂に入れ、服を脱ぐことも温まることもせずに俺の世話をやいたせいだろと指摘すると、相葉は大きなため息をつく。
またうるさいと怒鳴られるのかと思いながら相葉をじっと見上げていると、せっかく整えられた髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜられる。
「お前は、また寝込みたいのか?」
「え?」
俺よりも相葉の方が寝込みそうだと思いながら身体を起こそうとすると、肩を押されてベッドに逆戻り。
赤い顔をしているのは、きっと気のせいじゃない。
そう思うのに、相葉は俺の言葉なんて聞く耳をもたない。
「また、犯されたいのか?」
いつもよりも荒っぽい口調でそう言うと、ベッドに寝転び俺に覆いかぶさる。
この前セックスした時よりも身体は熱いし、呼吸も荒い。
それでも昂った相葉の熱は下がることはなく、硬さも失うことはない。
濡れた服の下に感じるその熱が太腿に触れ、身体の最奥を貫かれた熱を思い出した。
熱い吐息が首に触れ、触られてもいないのに下肢が僅かに熱を帯びる。
いつもよりも濡れた瞳に見つめられ、誘われるように背中に手を伸ばした。
でも、苦しそうに息をしている相葉の顔を見ていると、その気も徐々に失せていく。
病人相手に何を考えてるんだと欲望に流されそうだった自分を戒めながら、相葉の身体を隣に寝かせる。
顔を腕で覆いながら荒い息を繰り返す相葉の濡れた服を無理やり脱がせ、乾いたタオルで全身を拭う。
それでも相葉はぐったりとして動かずに、俺にされるがままになっている。
長袖のシャツを身につけさせ、自分がされたように肩まで布団を被せた。
既に目はしっかりと閉じていて、昂っていた熱は緩やかに下降していく。
幾分か落ち着き始めた身体に少しだけ安堵して、額に氷で湿らせたタオルをのせる。
いつも相葉にされるように汗ばんだ髪を撫でると、熱を帯びた指先が俺の指に触れる。
その指を握って、俺もベッドに寝転んだ。
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