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第4話

驚きすぎて言葉が出ない。 なにこの急展開。頭がついてこない。何がなんだかわからない。 だって名波先輩は、物凄くモテるし、格好良くて有名人で…。 そんな人が、話した事もない僕に付き合ってなんて言う? それに、僕が姫だなんて絶対に何かの間違いだし。 ………あ、そうか。 名波先輩は、少しでも気に入ればあっちにもこっちにも手を出してるって聞いた。 きっと、僕は毛色の変わった後輩だと、たまには違うタイプに手を出してみようって、そういう事なんだ…。 そうとわかった途端に、虚しさが込み上げてきた。 声をかければすぐに靡くような人間に見えるのか…。 簡単に声をかけて、飽きれば捨てる。付き合う相手をアクセサリーや暇つぶしとしか思っていないんだろう。 僕はそんなんじゃない。ちゃんと好きになった人としか付き合いたくない。 悔しくて悲しくて、涙が溢れてきた。 僕の顔を見ていた名波先輩は、流れ出す涙にすぐに気が付いた。 「…葵ちゃん…。泣くほど俺が嫌い?」 困惑したような声。 そうじゃなくて、と声を発しようと口を開いた瞬間、 バタン! 図書室のドアが開く音と、 ダダダダダダダ! 物凄い勢いで走る足音が聞こえ、 「あ!耀ちゃん発見!」 僕の背後に誰かが来た。 そして、 「あれ、もしかして俺、邪魔しちゃったー?……ってノノ姫泣いてるし」 ………誰か、僕に状況を説明して下さい…。 ノノ姫って何?この人は誰? 茫然と振り向いた僕の目に、ピンク色の髪の毛が映った。 襟足が長いロングウルフ。一重だけどアーモンド型の大きな目。 右眉尻と舌にピアスをしていて……。 富士高でのもう一人の有名人。 名波先輩の親友で、同じく格好良くてモテる人。 松浦苑(まつうらその)先輩。 驚きすぎて涙も止まった。 「耀ちゃんってば、お近づきになれた嬉しさで姫を襲っちゃダメでしょ」 「襲ってない。告っただけ」 「な~んだ」 …な~んだ、…って、なんだで済むような事!? この人達にとっては日常茶飯事の事かもしれないけど、僕みたいな人間にとっては一大事だよ。 頭が飽和状態になったままボーっとしていたら、横にしゃがみ込んだ松浦先輩が手を伸ばしてきて、僕の頬を撫でた。 突然の事にビクっと肩を揺らすと、 「涙~」 そう言って濡れた指先を見せてきた。 …恥ずかしい。 眉を顰めて松浦先輩を見ていた僕は、ちょっと油断していたんだろう。 いまだ腰に回されていた名波先輩の腕にグッと力がこもり、またしても引き寄せられてしまった。 上半身の右側が、名波先輩に触れて暖かくなる。 「エン。葵ちゃんに触ってんなよ」 「あ~あ、嫉妬深い男は嫌われるよ~」 「うるさい」 なんとなく、松浦先輩が緩い人だという事はわかった。 「でも耀ちゃん、ちょっといきなり過ぎじゃない?さっきからノノちゃん固まっちゃってるし。まずはお友達から始めたら?」 「…葵ちゃんもそう思う?」 「へ?」 まさか僕に話を振ってくるとは思わなかったせいで、なんとも間抜けな顔を二人に見せてしまった。 途端に。 「可愛い」 また名波先輩に全身で抱きつかれてしまった。 結局その後、僕の頭が上手く働かないうちに話は進められ、松浦先輩の提案通りに友達から始める事になってしまった。 「放課後になったら、出来る限り毎日葵ちゃんの教室に行くから、一緒に帰ろう」 「俺も行く!」 「エンは来るな」 「キューピッドに対して酷くなーい?」 どうやら松浦先輩は、僕と名波先輩を付き合わせる気満々らしい。 …どうしよう…。 明日からの学校生活を考えて、泣きたくなる僕だった。

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