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第9話

「ちなみに、耀平と松浦じゃ走りの種類が違ってるから、それぞれの帝王だな」 「………?」 走りの種類が違う? またも首を傾げた僕の姿に、名波先輩は小さく頷いた。 「俺はドリフト。エンはグリップ」 「………」 意味がわかりません。 頭の中が疑問符だらけになる。 そんな話をしている内に、どうやら車は松尾山の一番上に着いたようで、パーキングエリアのような駐車場に入った。 黒っぽいフイルムが貼られた窓越しに見る駐車場は、一種異様な光景となっていた。 とにかく一般車がいない。 どれもこれも走り屋らしき車だ。 みんな車の外に出ていて、仲間同士で話をしている人達もいれば、ボンネットを開けて何か作業をしている人もいる。 中には、ジャッキで車を持ち上げてタイヤ交換をしている人もいたりして…。 ちなみに、どれもこれも物凄く排気音がうるさい。 …と思ったら…。 あれ? 先輩の車、うるさくない。 「あの、先輩」 「ん?どうした?」 「他の車は凄い音がするのに、先輩の車ってうるさい音がしませんよね?」 「あぁ、これもマフラー変えてるけど、サイレンサー付きのやつだからな。爆音はない」 「…色んな種類があるんですね…」 本当に僕の知らない世界だ。 感心していると、隣の駐車スペースに誰かの車が止まった。 見てみれば、赤のGTR。松浦先輩の車だ。 総さんが運転席から降りてそっちへ向かうと、松浦先輩の車の運転席からも誰かが降りてきた。 窓ガラス越しの目の前に現れたその人は、夜目にも鮮やかな真っ赤な髪をしている。 この人が加瀬成美さんなんだろう。短髪をツンツンに立たせているせいか、ちょっとだけ怖い感じ。 二台のGTRの前に総さんと加瀬さんが並び立つと、駐車場にいた人達がみんなこっちを見た。 「葵ちゃんはまだ中に乗ってて」 「はい」 そう言って名波先輩が助手席から降りて前に居る二人の横に並び、更には隣から松浦先輩も出てくると、それまで作業していた人達までもが手を止め、見事にその場にいる全員の視線が集まった。 総さんが言っていた“神”や“帝王”という言葉が嘘じゃないとわかる光景。 四人で何か話しているのをボーっと見ていたら、不意に松浦先輩がこっちを振り返った。 フイルム越しとはいえ、それなりに透けて見える為バッチリと目が合う。 驚いて瞬きする僕を見た松浦先輩は、それまで無表情だった顔に満面の笑みを浮かべて歩み寄ってきた。 名波先輩もそうだけど、学校外…それも夜の中で見る先輩達は格別に格好良く感じる。 …こんな事を思う乙女心理みたいな自分がちょっとだけイヤだ。 僕がいる側のドア前まで来た松浦先輩は、窓ガラスをコンコンっとノックしてきた。 車のエンジンはかかったままだから、窓を開けてみる。 「ノノ姫こんばんは~」 「こんばんは、松浦先輩」 だいぶ緊張も薄れてきて、にこりと笑える余裕が出てきた。 途端に、何故か松浦先輩が片手で額を押さえてしゃがみ込む。 「ま…松浦先輩?」 窓から顔を出して下を見ると、それに気付いた松浦先輩は何事もなかったように立ちあがった。そして、困ったような笑顔を浮かべたまま僕の頭を撫でてくる。 僕達がそんな事をしていると、何人かの走り屋さん達が、車の前いる名波先輩達の所に近づいてきた。 「お疲れ様っす」 1人の男の子が挨拶し、他の数名の人はペコリと頭を下げている。 友達かな? じーっと見ていたら、僕の前に松浦先輩が立ちふさがったせいで何も見えなくなってしまった。話し声しか聞えない。 「耀平さん達が走るの待ってたんすよ。もう行くんすよね?」 「あぁ、そうだな」 「総さんと成美さんはどうしますか?なんなら俺達の車使います?」 「どうするかなぁ…」 総さんが何かを考えているみたいだ。 「あ!(その)さん!なんでそんなとこにいるんすか!」 さっきから喋っている人が、僕の前にいる松浦先輩に気が付いたみたいで、嬉しそうな声を上げた。 松浦先輩は片手を上げるだけで何も言わない。

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