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第12話

僕には理解できないまま、背後にあるガードレールに座る。 それにしても、さっきからずっと色んな人の視線を感じる。 みんなが松浦先輩の事を見てる。 隣に立つ先輩をチラリと見たら、それに気が付いたのか「ん?」と笑いかけてくれた。 訳のわかっていない僕がここにいても、いいのかな。 そんな事を思った時。 物凄い音が道の下の方から聞えてきた。 「来たよ、ノノちゃん」 キキーッというタイヤの軋む音。エンジンの唸る音。普段では聞けないような重低音の排気音。 あまりの音に茫然と道の向こうを見ていた僕の目に、真っ白のヘッドライトが見えてきた。 「お、最初は総君か」 松浦先輩の声が聞えたかと思えば、白い車が下のカーブを曲がって姿を現した。 僕が見えている目の前で、恐ろしい速さでカーブを曲がって上に過ぎ去っていく。 そして次に現れたのが、黒のGTR。名波先輩の車だ。 途端に、見ている人達からざわめきが起きた。 目の前のカーブを過ぎる時、名波先輩の車はタイヤを滑らせて斜め向きになり、走るというよりは滑るようにして過ぎ去っていった。 …なに…あの走り方…。 その後にもぞくぞくと車が走り過ぎていく。 目を見開く僕の鼻先に、ゴムの焼けつくような匂いが漂ってきた。 「ノノちゃ~ん。起きてる?」 声と共に、僕の目の前でヒラヒラと手が揺れる。 ハッと我に返って振り向くと、松浦先輩が笑いを噛みころすような顔をして僕を見ていた。 「ビックリしちゃった?」 「…はい…、こんなの初めて見るから」 「そうだよねぇ、普通はこんなの生で見ないよね。おまけにココ公道だし」 そう、公道なんだよ、普通の。 山奥の峠だから民家は無いものの、昼間は一般車両が走っている普通の道。 それがまさか、夜になるとこんな事になるなんて…。 僕が茫然としている間にも、目の前のカーブを色んな車が物凄い速度で走り過ぎていく。 その中に赤のGTRがいた。加瀬さんだろう。 名波先輩とは違って、総さんのような走り方をしていた。 「成美と総君は同じ走り方してたでしょ?タイヤを滑らせないやつ」 「はい」 「あれがグリップ走行ね。俺の車はグリ仕様だから、それを運転する成美も必然的にグリになるの」 「…はい」 「んで、耀平の走り方。コーナー入る時にタイヤのグリップを使わないで、わざと滑らせて曲がっていくやつ。あれがドリフト走行。ちなみに、耀平の車はドリ仕様になってます。OK?」 「…お…OK…です」 OKなのかOKじゃないのかわからないけど、とりあえず頷いた。 もう何が何やら…、頭の中が初めての知識でパンパンに膨れ上がっている感じ。 そろそろ容量オーバーしそう。 「よし。じゃあ一度上に戻ろっか。耀ちゃん達も車の熱を下げる為に一旦休憩するだろうし」 「はい」 松浦先輩に手を掴まれてガードレールから降りる。 そして、さっき乗せてきてくれた車まで戻った。 「純くーん。悪いけど耀ちゃんとこ行ってくれる?」 「はいはい任せて下さい」 さっきのお兄さんが、やっぱり優しい笑顔で僕達を迎えてくれた。 さっきと同じように車に乗り、上の駐車場に向かって走り出す。 「苑さんは今日は走らないんですか?さっき俺と一緒にいた奴が、苑さんのグリップ見たいって言ってましたよ」 「う~ん、そうだね~。後で走るかもねぇ」 のんびりと答える松浦先輩。 そういえばここに来る時に総さんが、名波先輩と松浦先輩は走り方が違って、それぞれの帝王だって言ってた。 という事は、松浦先輩はグリップ走行の帝王って事なんだよね。 それを思い出して、隣に座る先輩の袖を掴んだ。 「あの、松浦先輩。先輩も走って下さい。僕の事、本当に気にしなくていいですから」 そう告げた僕の必死さが伝わったのか伝わっていないのか…、少しの間こっちを見たまま固まった松浦先輩は、「参ったねぇ」と呟きながらグシャリと髪をかき上げた。 結局どうするつもりなのかわからないまま、車は駐車場に入っていく。 ランサーが向かった先に、黒のGTRと赤のGTR、そして白のワンビアがボンネットを開けて停車していた。 「はい、到着です」 「サンキュ、純君」 「ありがとうございました!」 「いえいえ、どういたしまして」 相変わらず明るい純さんに頭を下げてから車を降りると、いち早く名波先輩がこっちに気が付いて歩み寄ってきた。 「純の車に乗せてもらってたんだ?」 「はい!」 離れていたのは数分なのに、名波先輩の顔を見るのが久し振りに感じる。 松浦先輩が降りた後に軽くクラクションを鳴らしたランサーは、また道路へ出て下の方へおりていった。

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