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第19話

◆―◆―◆―◆―◆ 「ノノちゃーん。耀ちゃんなんて放っておいて俺と遊んでー」 「………」 松浦先輩がおかしい。 前だったら、僕が名波先輩と付き合うように仕向ける言動ばかりだったのに、今では何故か、僕と名波先輩が話していると間に入ってくるようになった。 どうしたんだろう。 もしかして、もう名波先輩は僕と付き合う気がなくなっていて、それを知った松浦先輩が僕達を付き合わせようとするのはやめた、とか? …とにかく、何がなんだかわからない。 それに、こうなってからというもの、松浦先輩のスキンシップが激しくなった気がする。 そのたびにギュッとなる僕の心臓は、どこかおかしいのだろうか。 「葵ちゃん、エンなんて無視していいから。俺の横においで」 そして、名波先輩も変わった。 前にも増して、言動や行動に強い意志を感じる。 僕の勘違い…というか、勝手な思い込みだけど、なんとなく、先輩達が僕を間に挟んで子供のように取り合っているように見える。 それは、先日の喧嘩のあとから始まった。 仲が良いのは今まで通りだから見ていて安心するんだけど、僕を間に挟んだこの張り合いはどうにかならないだろうか。 先輩達は特に気にもしてないと思う。でも、僕の心臓はずっとドキドキしっぱなしだ。 先輩達がいなくなると、あまりにドキドキし過ぎた後遺症で、グッタリと疲れ切っている自分がいる。 これだけ格好良いと、慣れや免疫なんて出来ないらしい。いつまでたっても、二人を目の前にすると見惚れてしまう。 僕は男だけど、これじゃまるっきり乙女だ。 無事に金曜日が終わり、土曜日がやってきた。 最近では、先輩達に会う平日が物凄く忙しい為に、休みになるとボーっと過ごしてしまう。 結局、今日も夜になるまでゴロゴロしていた僕。健全な男子高校生としてどうかと思う。 「ちょっとコンビニ行ってくるね」 「気をつけなさいね」 「大丈夫だよ」 夜8時。 外に出ると、月明かりが煌々と辺りを照らしていた。 住宅街のど真ん中にある僕の家の周辺は、外灯以外の目立つ明かりはない。 だから夜になると本当に真っ暗になるけれど、ここまで月が明るければ全然問題はない。 ダボっとしたカーゴパンツにTシャツ、その上に長袖のロングパーカー。部屋着とも言えそうな格好だけど、コンビニに行くだけだから別に気にしない。 だいぶ涼しくなってきた空気に秋の気配を感じながら、ゆっくりとコンビニを目指して歩き出した。 家からコンビニまでは、徒歩で8分程度。ボーっと歩いている間に、すぐ着く距離。 もう目の前に見える光源がそうだ。 ここのコンビニは駐車場の広さを売りにしている為、車で来る人達にはすこぶる評判がいい。 今も、広い駐車スペースの3分の2は車で埋まっている。 何気なくそこを横切って、コンビニの入り口まで進む。 でも、その途中で視界に入った車に、つい足を止めてしまった。 今までの僕だったら気にも留めなかったタイプの車種。 走り屋仕様の車だ。 松尾山の上ではたくさん見たけど、こうやって日常の中で出会うと、やっぱりどこか異質なものに感じる。 チラリと車を見た後に、また歩き出した。 けれど、 「おい、お前。ちょっと待てよ」 突然呼び止められた。 名前を呼ばれた訳じゃないけど、聞こえた声の方向からして間違いなく僕の事だろう。 あまり好意的には思えない口調に振り向くと、さっきの走り屋仕様の車の影から男の人が二人、姿を現した。 立ち止まっている僕の元に近づいてくるその人達。 最初はまったくわからなかった。 でも、目の前に立たれて顔がはっきり見えるようになると、僕は小さく「あッ」と声をあげた。 「へぇ…俺達の事覚えてたんだ?」 「金魚の糞のくせして、生意気に」 松尾山で名波先輩達に話しかけ、去り際に僕を睨んできた人。

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