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第22話
◆―◆―◆―◆―◆
2時間目と3時間目の間の休み時間。
前の授業の教科書やノートを片付け、次の授業の準備をしている最中、何やら視線を感じた気がして顔を上げた。
「………」
「………」
前の席の陸が、こっちを振り向いて僕の事をジーッと見つめている。
視線を感じたのは気のせいじゃなかったみたいだ。
「なに?陸」
教科書を机の上に出しながら聞いたけれど、陸は一言「なんでもない」とだけ言って前に向き直ってしまった。
…なんだったのかな?
首を傾げて考えるも、思い当たる事は何もない。
その内に教科担当の先生が来て、授業は始まった。
そして、陸のその物問いたげな視線は、次の休み時間にも向けられた。
これで気にならないはずがない。
午前の授業が全て終わった昼休み。
いつものように向き合ってご飯を食べている時に、思いきって陸を問い質す事にした。
「ねぇ、陸」
「ん?」
「何か僕に言いたい事があるんじゃない?」
「………」
あきらかに何かを言い淀んでいる。こんな陸は珍しい。どちらかというと、言いたい事は全部言うタイプなのに。
箸を持ったまま陸を見つめていると、「はぁ…」と溜息を吐かれた。
「あのさ、最近の葵、ちょっとおかしいよな?」
「おかしい?…僕が?」
思わぬ事を言われて、目を瞬かせた。
どこがおかしいのかわからない。
というか、おかしいと自覚があったなら、おかしい行動なんてとらないと思う。
…屁理屈だけどね、これは。
思いっきり首を傾げたら、
「この2~3日、ボーっとしてる事が多いだろ?何か悩み事があるなら言えよ」
「………陸…」
まさか陸のあの視線が、僕の事を心配してくれていたからだったなんて思わなかった。
嬉しくて顔が緩む。
僕がヘラヘラと笑ったからだろう、今度は呆れたような溜息を吐かれた。
「葵…、お前さ、なんだかんだいって全部ため込む方だろ?何かあるなら吐きだせよ。そのくらいは、俺の事信頼してくれてもいいと思うけど?」
「…陸…」
思わず目を見開いた。
だって、陸がそこまで思ってくれていたなんて…。
なんとなく、名波先輩と松浦先輩の事を思い出した。
いつか僕達も、あんな関係になれるかもしれない。
手に持っていた箸を置き、背筋を正して、改めて真正面から陸に向き直った。
「ありがとう。………実は最近、なんかよくわからない自分がいるんだ」
僕がそう話し始めると、陸も真剣な表情に変わった。
名波先輩の事、そして土曜日の松浦先輩の告白。
名波先輩に対する自分の今の気持ち、松浦先輩に感じる落ち着かない変な感情。
とにかく、この数週間に起きた全ての事を、自分の気持ちも交えて全て陸に話した。
「…それで、気がつけば色々と考えこんじゃって…」
一気に話したら、一気に力が抜けた。
やっぱり、溜めこむのって良くないのかも…。
少々脱力気味に肩を落とす。
そのまま陸を見ると、
「……陸?」
何故か陸は、さっき以上に真剣な顔でこっちを見ていた。
それはもう穴が開くくらいにジーっと。
何かおかしな事を言っちゃったのかな?
自分の発言を思い返す。
…どの部分だろう…。
うんうん唸っていると、突然陸がボソっと呟いた。
「…葵は、松浦先輩の事が好きなんだな」
「……………へ!?」
なに、それ。
…僕が松浦先輩の事を好きって…、それって…。それって…。
「ぇえ!?」
火を噴くかと思うくらいに顔が熱くなった。
だって、…だって!
「落ち着けよ、葵」
「だって!陸が変なこと言うから!」
「変な事じゃないだろ?っていうか、葵だって薄々気づいてたんじゃないのか?でも、それを認めるのが怖くて自分で自分を誤魔化してた部分もあるだろ、絶対」
「………」
黙り込んだのは、陸の言った事が本当だったから。
わからないと自分に言い聞かせていたけれど、心のどこかでは、たぶん、気付いていたんだと思う。
でも、確証もなかったし、認めるのも怖かったし…。
それに、気のせいかと思っていた。
自分の感情が信じられなかったんだ。
「…でも、僕…、名波先輩が…」
「間違うなよ、葵。こういう時に大事なのは葵の本当の気持ちだろ。名波先輩は、葵の事が好きだからこそ、本当の気持ちを言ってほしいと思ってるはずだ」
「…陸…」
ハッキリ言われて、目が覚めた。
そうだね、名波先輩はそういう人だ。
そして、僕も認めなきゃ。
……松浦先輩に惹かれている事を…。
「早く飯食おうぜ。もう昼休み半分終わってるぞ」
勇気づけてくれる陸の満面の笑みに促され、さっき置いた箸を手に取った。
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