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第4話 淫靡な夜③

 起き上がろうとした刹那、逃がさないという勢いで、さっと跨ってくる下田。   「ピンク色のバスローブ、すごく似合ってますよ安田課長」  耳元でわざわざ告げながら、両腕をがっちりと掴まれてしまった。それだけじゃなく、布越しでも分かるくらいに大きくなったモノを、尻にごしごしと擦りつけてくる。 「やっ、やめてくれ!! いやだ、頼むから!」 「ふふっ、大丈夫ですよ。上司を気持ちよくさせるのは、部下の務めですしね。安心して身を任せてください」 「そんなのしなくていいから! 会社の仕事だけすればいいっ」 「ああ、もう……、じたばた暴れないでくださいって。しょうがないな、よいしょっと」  涙目で後ろを見たら、掴んでいる私の両腕を嬉しそうな表情を浮かべながら背中に移動させ、下田が着ているバスローブの紐を使って、きっちりと縛り上げていく姿があった―― 「これでよしっと。あ、安田課長のバスローブ脱がせるの忘れてた」  仰向けにされても、なおも抵抗を試みる私を、上から楽しげに見つめてくる下田に、ふいっと顔を背けてみた。 「いいっすねぇ……。普段見られない安田課長の姿。ムダに暴れてくれたから、いい感じにピンクのバスローブが、こぉんなに肌蹴ちゃって。もしかして触って欲しかったんでしょ?」  つつっと太ももの内側を撫でられ、身体がビクついてしまう。 「ねぇ、すごく感じてるのに、そんな風にガマンしなくていいですよ。今は安田課長と僕だけしかいないんです。もっと、声を出して淫らに……」  首をへし折るくらいの力で強引に正面に向けさせると、覆いかぶさるようにキスをしてきた。 「んぅ……くっ、あぁ……」  下田の舌が私の舌にねっとりと容赦なく絡んでくるので、喘ぐように息をするしかない。頭の芯がじんじん痺れてきたのは、酸素が足りないせいなのか。はたまた、酒が回ってきたからなのか―― 「ふっ……下田、思いのほか、キスが上手いじゃないか。その調子で、仕事に励んでみたらどうだ?」  悔し紛れに告げた言葉に、下田はふわりと花が咲いたように微笑んだ。 「褒められついでに、教えてあげますよ。仕事が出来ないフリしてたのは、安田課長に構ってほしかったからです。ご希望とあらば右腕になるくらい、仕事を頑張ってあげますけど」 「なっ!? お前――」 「それよりも今は、安田課長を僕の手で快楽の世界に、ごあんな~ぃ!」  言い終わらない内に耳朶を口に含み、グチュグチュと口の中で弄ぶ。 「あぁっ、も……っ、やめっ!」 「ダメダメ。もっと感じさせてあげます」  私の身体を押さえつけ、縦横無尽に動く下田に肌が粟立ち、ぞくぞくしたものを感じずにはいられなかった。 「んあっ! ……あっ! うぁあっ」  抵抗出来ずに、色気のない声をあげるしか出来ない自分。今まで与えられたことのない感覚を感じつつも、頭の裏側では今まで抱いてきた女たちは、こんな風に感じていたんだと、改めて考えさせられた。  滲んでくる涙で目の前が歪んでいるのに、意味なく天井を仰ぎ見た。まるで、水の中にいるみたいだ。今の現実を受け入れたくない自分に、ぴったりかもしれない――  好きでもないヤツに、こういうことをされるのは堪らなく辛い。それだけじゃなく、残念ながら感じてしまっている自分が、一番に情けないじゃないか。 「いっ、いい加減に…しろよ、下田っ……私は男なんだ、ぞ……」 「何を言うかと思えば。男同士だからこそ、責めどころが分かるっしょ」 「ちょっ! やめろ、見るな」  じたばた暴れる足を無理矢理に押さえつけられてしまい、下田の手がまっすぐに、そこに向かって伸ばされてしまった。  見られたくないところを見られ、頬が一気にぶわっと上気する。 「これを使って、今まで何人の女性を啼かせてきたんですかね」 「大昔の話しすぎて、覚えちゃいない。頭の中に残っていないが、心の奥底の見えないところに、彼女たちは棲んでいる」 「へぇ、だったらその彼女たちみたいに、安田課長のことを喘がせてあげますよ」  下田が与える快感が、ダイレクトに伝わってくる。それが久しぶりすぎて、腰を何度も浮かせてしまうレベルだった。  両腕を腰の位置で縛られているから、余計にアピールする形となり、羞恥心を煽られつつも、次第に迫りくる絶頂に抗うことが出来なくなってきた。 「やっ…はあ、ぁ、そ、そんなの……っ、ああっ!」  これをあと少し続けられたら、果ててしまうというところまで追い詰められた瞬間、挿れてはいけないところに何かを挿れられ、目を白黒させるしかない。 「くっ、ひぃっ……なに、を――!?」  一気に快感が引いてしまうくらいの、違和感だらけの何か。額に汗がじわりと滲んできた。 「きちんと慣らしておかないと、安田課長が辛くなくて済みますからね。少しだけガマンしてください。その内、すごく善くなりますから」 「そんなのっ、信じら、れ…るワケがな……いだろっ」  表情でこっちの苦痛が、手に取るように分かっているだろうに、容赦なくぐりぐりされて、汗と一緒に涙がどんどん流れていった。 「可愛い顔して泣くんですね。しょうがないな、これくらいで勘弁してあげますよ。ガマンしたご褒美に、イカせてあげますね」  下田は自分のモノを取り出し、私のと一緒に弄りはじめる。もともと感じているところに強引に押し付け、擦られるだけで先程まで感じていた苦痛が飛んでいった。 「んぅっ……あ、あっ…もっと――」  逃がした快感を追いかけるように、自ら腰を動かす。卑猥な水音が耳に聞こえているのに、すごいことをしている自分の行動を、止めることが出来なかった。 「もっとしてほしいですか? では僕のこと、名前で呼んでみてください。陽成、もっと擦ってくれって。イカせて欲しいって頼んでくださいよ」 「そんなの、はぁ、あっ……無理、だっ」  途端に握りしめられていた力を、ぱっと抜かれてしまった。高められていた快感を失いたくなくて、下田に擦りつけたけど、ただそれだけで―― 「名前で呼ばないと気持ちイイこと、してあげません」 「下っ…ん、カゲナリお願いだ。私のことをイカせてくれ。お前のそれで、気持ちよくしてほしい」  下田の腰に両足を絡ませ、ぐいっと引き寄せてみる。 「安田課長……こんなことされても、ちょーっとまだ必死さが足りない、みたいな?」 「必死さが足りないなんて、酷いじゃないか。言われた通り、頼んでいるのに!」  両手を使えない体だったが何とか半身を起こし、唸りながら下田に抗議した。 「ご自分の立場を、よぉく考えてみてくださいよ。安田課長は両手を縛られて、なぁにも出来ないカメ状態なんです。僕だけが頼みの綱なんですよ」 「確かに、そうだが……」 「してほしいんですよね? 部下の僕にアレコレ」  くっくっくと笑いながら私の頭を掴み、起こしていた半身を、力ずくで布団に押し戻した。しかも頭を掴んでいるてのひらを使って、じりじりと握りつぶす勢いで押し付けられ、苦痛しか感じない―― 「いっ、痛い……やめてくれ」 「可愛さ余って、憎さがねぇ――どんな顔していても、本当にそそられてしまいますよ、安田課長」 「やめてくれ、本当に痛いんだって」 「まったく。ダメな上司ですね、頼み方を教えて差し上げたでしょう?」  冷たい声色が、更に恐怖心を煽ってきた。  ――下田は、どんな顔をしているんだろうか。  大きなてのひらで顔を塞がれているから表情が分からないが、きっと冷酷な目をしているんだろう。しかも無様な姿を晒し、部下に頼みごとをしなければ解放されない自分の事情に、もっと涙が出そうだ。  だけど―― 「……お願いします、この手を離してください」  消え入りそうな声でやっと告げると、呆気なく外してくれた。 「よく出来ました。偉いですね、安田課長は」 「…………」 「さて、次は何を頼んでくれるんですか? 苦痛の後の快楽は、いつもの倍以上に感じるものなんですよ」  言いながら頭を優しく撫でてくれるその手に、縋りつきたくなる衝動に駆られた。 「カゲ、ナリ――」  求めるように、名前を呼んでしまった。 「大好きなアナタに、そんな風に呼んでもらえて僕は幸せです。さぁ、次は何をお望みですか?」 「カゲナリの手で、気持ちよくしてください。強く握りながらごしごし弄って、私をイカせてほしいです」  普段の自分だったら、こんなことは言わない。いや、言えないハズなのに……。酒に酔った勢いなのか、それともコイツに酔っているのか―― 「僕が一番欲しかった言葉を言ってくれて、有り難うございます。安田課長のお望み通り、してあげますからね。さぁ、たくさん感じてください!」 「はぅっ! あっ、あっあぁっ、あ゛あ゛……」  時間が結構経っているというのに、どうして最初の時よりも、こんなに感じてしまうんだ? 「すげっ! 感じまくってますね」 「言う、なっ…そんな、こ、と……んぁ、も、もぅ――」 「ご一緒出来ないのは残念だけど、いいですよ。安田課長のイク顔、見せてください」 「み、見るなっ、ぁ、ん……っ…いっ!」  下田が更に頑張ってくれたお陰で、呆気なく果ててしまった。顔を見られないよう目をつぶり、全力で横を向く。  ――久しぶりだからって、これはないだろ……  その後、抵抗するにも息つく暇がなく、両足を開かされ、下田にされるがままでいる自分。   「ふぅっ……く、やめ…」  感じたことのない体にかかる圧迫感に、私が苦痛で顔を歪ませているのにも関わらず、そんなの関係ないとばかりな表情を浮かべる。 「こんなに愛してるのに、分かってほしいっす。安田課長の姿を見て、こんなに感じてるのに」 「お前のっ…愛し方と私の、愛し方は違う……も、ぅ止めっ…て、くれ……」 「なら、僕の愛し方をしっかり教えて差し上げますよ。さぁ、受け止めてください」  イヤな笑みを浮かべた下田にそのまま弄ばれ、愛が分からないまま行為が終わってしまった――

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