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第6話 私の愛し方

 下田と一夜を過ごしてからというもの、アイツのことが否応なしに、目に入ってしまった。  ラブホで宣言してくれた通り、仕事を難なくこなしてくれるようになってくれた。それが無条件に嬉しくて、自分の抱えていた仕事を、下田に少しずつ回してやっていた。    そんな自分に戸惑いつつも、この微妙な距離感を何とかしたくてつい、下田を構ってしまうことを自覚し、慌てふためいて、赤面してしまう場面も何度かある。 (いかん――)  俯きながら首を横に振っていたら、ぽんと肩を叩かれた。振り向くとそこに、柔らかく微笑んだ下田がいるではないか。 「そろそろ、取引先に行かなきゃならないっすよね。お時間、大丈夫ですか?」 「もうそんな時間だったか、済まないな」  腕時計を確認しながら教えてくれた下田の優しさに、コッソリほくそ笑む。デスク周りにある書類を片付け、よっこらしょっと立ち上がって、愛用してるカバンを手にした。 「僕も途中まで、ご一緒していいですか? 江藤に書類を頼まれてしまって」 「そうか。好きにするといい」  なんて口では言ったが、心が弾んで仕方ない。職場ではなかなかプライベートな話が出来ないが、一歩外に出てしまえば、気兼ねなく話をすることが出来る。  ふたり並んで部署を出て、あと少しで会社から出ようとしたときだった。 「バッチリなタイミング! かげっ!!」  見知らぬ会社の制服を着た女子社員が、ゆっくりと開く自動ドアを両手で押し開くように入ってきて、下田の左腕をぎゅっと掴んだ。まるで、捕まえたといわんばかりに。  そんな彼女を見てから、私の顔を窺うように見た下田の顔には、しまったと書いてあるのがハッキリと見てとれた。  下田の名前を呼ぶところをみると、親しい間柄なのだろう。 「連絡しても捕まらないんだもん。会社の近くをたまたま通ったから、受付で呼びつけてやろうと思ってたんだ」 「受付で呼び出しって、おまっ……何、考えてんだよ」 「だってぇ大事な話だったし。かげの赤ちゃんがデキちゃった」  ばしっ! 「いった~……。なぁに、このオッサン?」  気がついたら、下田の腕を掴んでいた彼女の手を、思い切り叩き落していた。 「こら、オッサンじゃないって。僕の上司なんだから」  そう、私はただの上司―― 「あのさ、赤ちゃんの話だけど大事なことだから、後でゆっくり話そう。ちゃんと連絡するからさ」  私が叩いてしまった手を撫でながら彼女を宥めて、会社の外に追い出してくれる。 「あの……安田課長、僕は」 「おめでたい話じゃないか、良かったな」 「でも僕が好きなのは、安田課長だけなんですっ」  下田のあまりの言葉に、気持ちの矛先をどうしていいか分からず、カバンの持ち手をぎゅっと握りしめた。 「そんなこと言って、私を困らせたいのか。お前は……」 「そんなんじゃないです。何か、タイミングが悪かったとしか、いいようがなくて」 「確かに、間が悪かったな今回は。だったら私から、いいことを提案してやるよ」  苦笑いしながら、下田の肩を叩いてやる。 「いいこと?」 「ああ。私たちの関係を断ち切るための、最後にしようじゃないか。お昼休み、屋上を人払いしておいてやるから来てほしい。待ってるから、カゲナリ」  愛しげに名前を呼び、背中を向けた。  一緒に出かけるハズだった外出をその準備のために、ひとりでさっさと出発したのだった。

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