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第9話
「渉、あ、あのね・・・」
何もそんなに顔を真っ赤にしなくてもいいのに。変な誤解を招くだけなのに。当の本人は全くその事に気が付いていない。
「湊斗、俺から説明する」
それとなく何気にパパの体に触れる男の手を渉は目をつり上げて見ていた。
「初めまして早川と申します」
ちらちらと渉の顔色を伺いつつ、笑顔の下に対抗心をめらめらと燃やす男性。
「まわりくどい言い方はどうも苦手で、単刀直入に言う。お父さんと付き合いたい。君がファザコンなのは知っている。どうだろう四人で暮らすのは?」
「はぁ⁉」
何かの聞き間違えだろう。
最初そう思ったが、男性の顔は真剣そのもので、冗談を言っているような顔ではなかった。
「しゃ、社長‼」
湊斗は、というと耳まで真っ赤にし、あたふたしていた。
「あのね、渉・・・違うの。えっと・・・」
しどろもどろなりながらも、言葉を続けようとする湊斗。でも、焦れば焦るほどその先の言葉がなかなか出てこない。
「離婚した妻との間に娘が一人いて、普段は両親が子守りをしてくれているんだが、二人とも海外旅行に出掛けてしまって、帰ってくるまで湊斗に娘の面倒をみて貰っていたんだが、娘がすっかりなついてしまって・・・まぁ、俺も湊斗を嫌いな訳じゃないから、付き合うのもアリかなって思って」
男性に熱い眼差しを向けられ、湊斗の身体は発情したかのように朱色に染まった。
「違うよ・・・渉、こ、これは、その・・・ね・・・あっ、そうだ‼誤解なんだ。彼とは・・・」
モジモジしながら、ちらっと早川を見上げる湊斗。
「キスして、好きって言いながら抱き付いてくれたーーのに?寝惚けていたとはいえ、可愛かったよ、あのときの湊斗。今も勿論可愛いけど」
「だから、あれは、人違いだったの・・・」
まさかその事を引き合いに出されるとは予想していなかった湊斗。
息子で、恋人でもある渉に、慌てて目を向けると、眉間に皺がどんどん寄っていって、顔には青筋が立っていた。
終わった・・・
どうしよう・・・
己の不甲斐なさ、優柔不断さを心から呪った。
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