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過去の話
夜遅い時間。真夜中ってほどではないけど、模範生はもちろん、平均的な生徒であったら出歩かないような時間。公園で俯きがちにブランコを漕いでいるその姿は、ちょっと異質だった。
外見が派手なんじゃない。どこにでもいるような、普通の黒髪。まあ、肌は透き通るように白くて、その黒髪も遠くで見ても艶があるのが分かるほど綺麗だったから、「どこにでもいそうな生徒」というのは違うかもしれないけど。
ただ、おっそろしく整った外見をしていたところで、その子が夜遅い時間にブランコを漕いでいる光景の異質さは変わらない。
脱色染色なんてしたことのないような綺麗な髪に、大人しそうな雰囲気。
他人が勝手に抱くイメージだけど、そういう生徒は夜遊びをするようには見えない。夜遊びをするように見えないから、なんらかの事情であれ、そういう生徒が夜遅く出歩いていると目を引いてしまう。
……で、塾帰りの気弱な真面目クンとかだと不良生徒にカモられるんだろうけど、今1人ぽつんとブランコを漕いでいるこの子に関しては、カモられる心配はなさそうだ。
まあ、怪しいオジさんとか、やっぱり不良生徒とかに「3万でどう?」「綺麗な顔してんだから1発くらいヤらせろよ」とか、言われそうな見た目と雰囲気はしてるけど。
なんてことを考えながら公園を覗いてるオレの方がよっぽど不審者だ。
金髪にピアス。着崩した制服。
誰かに見られていたら言い訳の余地なく、黒髪クンを狙っている不良生徒なんだろう。
確かにオレも素行が良くはないけど、そこまでの不良じゃない。
平均よりちょっと生活態度が悪いくらい。教師から露骨に目を付けられないし、誰かから舐められることもない。そんな適度な立ち位置は心地いいから、高校生活を1年半残している身としてはなんとしても守っておきたい。
だからオレは、ちょっと気になったけど。ちょっと名残惜しかったけど。公園から去ろうとして。
「ちょっと!? 何やってんすか!!」
気が付けばブランコの黒髪クンに駆け寄って、彼が手にしていたカッターナイフを叩き落としていた。
面倒事はごめんなのに。
自分でしたことに気付いたのは、彼に叫んで、叩き落したカッターナイフが地面に落ちて立てた、乾いた音を聞いてからだった。
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