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第5話

 それを言うなら、殴られたこともないのに、でしょ?  そんな風にからかえる空気じゃない。  子供の時ならきっと、撫でられたこと、あると思うよ?  そんな、つっこんだことを言える間柄じゃないし、無責任なことも言えない。  彼の言葉に頭をグラグラさせて、なにも言わなくなったオレに、彼は困らせたと思ってしまったんだろう。 「悪い。急に重い話をしちまったな」 「そんなこと」  咄嗟に言ったけど、「ない」とは言えなかった。  だって彼が口にした言葉は、軽いなんて言えない。  でも、オレが話の重さにたじろいだとか、不愉快に思ったとか、そういうんじゃないのは伝えたくて。彼がまた、ダークグリーンを濡らすところを見たくなくて。  オレは必死で言葉を探した。まだグラグラする頭を必死で働かせる。 「……軽い話だ、とは言えないけど。でも、アンタが謝ることじゃないっすよ」 「お前、お人好し?」 「それは違うっす。……ほんと、自分でも理由は分からない。でもアンタのことが心配で、ちょっとでもアンタの力になれたらなぁ、なんて。無責任にも思っちゃって。……ごめんね」  無責任なのは分かってる。今度こそ怒られてもいいと思う。  だけどまた、ダークグリーンはまんまるになって、少し泣きそうに揺れる。 「でも、悪いな。オレ、もう死ぬって決めたんだ。だからもう1つだけ、お前に甘えていい? 初対面の人間に身の上話されても困るだけかもしれないけど」  死ぬって決めた。彼の言葉はオレの胸を突き刺した。  初対面の人間に身の上話をされるのは、確かに困る。普段のオレならそう思った。でも彼の話は、彼の支えになるのなら聞きたくて。  彼の死ぬという決定を変えられないなら、せめて、彼の願いを聞きたくて。  頷いたオレに、ダークグリーンは、また、ぼろぼろ雫を落とした。

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