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華宮 真湖

「もしかしたら、この名前で少しは伝わる……かも」  少しして涙も落ち着いたのか、彼はそう切り出した。  彼の言う通り、それで少しでもオレが理解できれば、少しは辛いことを言わせないで済むかもしれない。  あまり事情通ではないけど、なんとか彼の名前から察せるようにって、オレは自分の持つ知識をそれこそ総動員させた。 「オレは華宮(かみや) 真湖(まこ)。名前の方はともかく、華宮って名字に聞き覚え、ある?」  そのかいあってと言うか、わざわざ総動員なんてしなくても。  彼が名乗った華宮の名前は、それなりに有名なものだ。それなりに有名なものだから、オレは驚いて言葉を失ってしまった。  きっと目は、まんまるになっていたんだと思う。もしかしたらその態度こそ彼を、真湖を傷付けてしまうのに、まんまるになった目に「信じられない」っていうような色も浮かべてしまっているかも。  オレの反応は、真湖に華宮を知っていると伝えるのに十分だったみたい。  真湖は小さく苦笑して、ダークグリーンをすっと細めて、肩を竦めた。 「お前が浮かべてる華宮であってるよ。それなりに優秀な女が有名な、あの華宮」  真湖の言い方。  小さな苦笑も、細められたダークグリーンも、肩を細める仕草も。  それから、オレ達の足元に転がったままのカッターナイフも。  みんなみんな、真湖が諦めている証拠みたいに見えた。  真湖が「だから仕方ないんだよ」って言ってるみたいに見えた。 「厳しい家柄で、後継ぎは男だけ、って決めてる家の第一子が女だったら、あたりはキツくなるものだろ? それは逆でも同じことなんだ」  それなら、真湖が撫でられたこともない、っていうのも、不自然なことじゃなかった。

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