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新しい道を
目を覚ました真湖 の容態は、極めて良好らしい。
医者からその答えを聞くたびにオレは安心した。
食べる量が少しずつでも多くなっていく真湖の様子も、凄く嬉しい。
一応華宮 の人間がなにか聞き付けて手を出してくる、最悪のパターンも考えたけど、平穏な生活が続いている。
念のためワイドショーやネットで調べてみれば、今はもう真湖の妹が第一線で活躍していて、つい最近も有名な先生に実力を認められた、なんて記事が出ていた。
母親もそっちにつきっきりで、嫌な話だけど、もう真湖に用はなさそうな感じ。
家柄と言っても、あまりにひどい態度に苛立ちはしたけれど、同時に安心もした。
やっぱり大きな家が相手になってしまうと、真湖を守ることは難しくなるから。
いいことづくめの中で、でも医者は残念そうに真湖の記憶が戻る様子が見られないとオレにこっそり教えてくれた。
だけどそれも、オレにとっては、いいことだ。
世間ではエゴと言われるんだろうけど、あの夜真湖から聞かされた話を思うと、覚えていて幸せと思えるものじゃない。
幸せなんて第3者が勝手に決めていいものじゃないんだろうけど、でも、やっぱり、思い出してしまったら痛い記憶だと思う。
それにあれから実際には何年も経っているけど、真湖にとってはつい最近のことだ。真湖の精神はきっと、高校生のまま。
そんな状態で受け止められることじゃない。最悪、ショックでまた昏睡状態に戻ってしまうかもしれない。
何年も真湖の様子を診てくれて、記憶の回復にも親身になってくれている医者には申し訳ないけど、オレは真湖の記憶が戻らないように用心している。
特に、いいことづくめの今は尚更。
嬉しさに浮かれて、幸せに酔って、自分の手でそれを壊してしまうなんてバカらしいにもほどがあるから。
今度こそ真湖をオレが守りたいし、真湖はもう、幸せだけを感じて生きてもいいと思うから。
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