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第3話
忘れていれば尚更、もしかしたら覚えていても、目を覚ました病室に家族の姿がないっていうのは、辛いと思う。
それは自分が「いらない」と突き付けられているようなものでもあるから。
だからオレは、せめて真湖 を大切に想う1人になりたかった。
オレで悲しみを癒せるなんてうぬぼれていないし、もっと怯えさせる可能性だって考えていた。
真湖の病室にいる間は、ただただ心配で、きちんと考えるような余裕はあまりなかったけど。
もしかしたら。
もし、真湖を大切に想ってるよと言う誰かがいれば、真湖がまた自殺をしようなんて思わないかもしれない。
一緒に生きてくれるかもしれない。
そんな都合のいい期待を抱いていたから、だからオレは、真湖の記憶喪失を喜んでしまったのだ。
ずっと忘れたままでいいと思ってしまうのだ。
もしかしたら“今”の真湖は、思い出すことを望んでいるかもしれないのに。
嫌なことを忘れられているから。
オレが、真湖を大切に思ってると、疑うことなく、すんなり受け入れてくれるから。
だから、忘れていてくれてよかった、なんて。
純粋とは、ちょっと言いにくいような気持ちを抱きながら。それでもやっぱり、真湖を幸せにしたい、真湖と一緒に生きたいという気持ちがあるから。
一緒に暮らしていたんだよ。
嘘を重ねて、オレの家に……真湖と暮らすことを願っていたから、1人暮らしにしては大き目だと言われていたオレの家に、手を繋いで、並んで帰る。
ぎゅっと、握り返された真湖の手。少しの不安とワクワクを宿したダークグリーンに。
オレは、嘘も全部背負う覚悟を改めて決めて、微笑み返した。
「一緒に生きよう。一緒に幸せになろうね、真湖」
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