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203号室2
「分かり合えて良かった。まぁ、座れ。何か飲むか?」
「あ。大丈夫です。お構いなく」
吾妻は素直にベッドの端に腰掛けた。
───おいおい。素直すぎるだろ。
つい先日、このベッドで押し倒されキスをされたというのに。吾妻の純真さに槇は微笑を浮かべた。
……本気で欲しくなってきた。
この田舎から出てきたばかりのような純朴な雰囲気の処女童貞であろう男が、自分に抱かれてよがり鳴く姿が見たい。
槇は冷蔵庫からカフェオレのボトルとガラス瓶の炭酸水を出して「どっちだ?」と吾妻に聞いた。吾妻は遠慮がちにカフェオレを受け取り、槇は炭酸水を冷蔵庫に戻して吾妻の隣に座った。
「ラブホってのは未だに怪しいイメージがあるみたいだが、うちは高級志向だからな。女性誌でも紹介されているから安心しろ」
「はい」
素直に返事をする吾妻の顔をじっと見つめて「仕事の話は終わりだ」と、槇は告げた。
「ありがとうございました。清古にも伝えて……」
吾妻は立ち上がろうとして、槇の腕に引き止められた。
「槇社長?」
「ここからはプライベートだ。誘わせてもらうと言っただろう」
「は、え!?」
強く腕を引かれて、そのままぐるりと態勢を入れ替えられる。あの夜のように、同じベッドの上に押し倒されてしまった。
「な、何を!? 貴方はこんな冗談ばかり! いい加減にしてくださいッ!!」
「冗談じゃなく、気に入ったと言っただろう」
「し、仕事に私情は挟まないって、おっしゃったじゃないですか!?」
もがく吾妻の体を、手脚を絡めるようにして押さえ込みながら、槇は低く笑った。
「挟んでいないだろう。今日は仕事の話は終わったんだ」
「じゃあ、もう帰りますッ!!」
「もう少し付き合え」
「嫌です! いやだっ……! 離してくださいッ!」
吾妻はあの夜逃した魚だ。
今回は逃す気はない。吾妻がもがき疲れるまで、槇は腕の拘束を緩めなかった。
「はぁっ……は、離して……なんでっ……僕なんか、相手にしても、つまらないでしょう!?」
息を切らしながら逃げようともがき続けて、吾妻は槇の気が変わる事を願った。急な展開が未だに信じられない。
「つまらないかどうかは俺が決める。今のところは楽しめそうな感じだな」
「貴方なら、相手はたくさんいるでしょう!? 僕なんか、悪趣味です! からかわないでッ!!」
「からかってない。ほら……」
下肢をぐっと押し付けられて、槇の股間が僅かに反応しているのを教えられた。
「ひぃ!?」
吾妻の怯えた表情は新鮮で、槇は擦り付けるように腰を蠢かせた。
腕の中で暴れる吾妻の細い体に、はっきりと欲情していた。嫌がる相手を犯す趣味など無いが、何故か吾妻の嫌がる様にそそられるのだ。
「あ、あ、うそっ……嘘でしょう!? やめっ……やめてくださいッ!!」
「これで信じる気になったか?」
「し、信じるっ! 信じます! だからっ……やめてくださ……ッ!」
「よし。じゃあ先に進めるな」
「え……何を……やめて!」
槇の手がしゅるりと吾妻のネクタイを解く。吾妻を捕らえたまま、器用な指先がシャツのボタンを外していく。
───嘘!? 嘘だ! こんなことって……!
吾妻は信じられないと目を見開いて、もがき続ける。だが、体力の無い細い体は徐々に疲れて、弱々しい抵抗しかできなくなってしまう。
「悪い冗談なんでしょう……お願いです! 槇社長! やめてくださいッ!」
「……それいいな。お願い社長、やめてください、なんて言われると余計に燃える」
「そんな……あ!」
すっかりはだけたシャツから覗く素肌に手のひらを這わせた。吾妻の体がビクリと硬直する。
「綺麗な肌だな。子供みたいだ」
「お願いです。こんな……性接待みたいなこと……ぼ、僕には無理です」
吾妻はカタカタと震えながら、槇に哀願する。槇は色気を纏った笑みを浮かべた。
「仕事に私情は挟まないと言っただろう。俺とセックスをしようがしまいが、清古との仕事は変わらない。これはプライベートだ。割り切って楽しもう」
「楽しめるわけないッ! 離してください! これ……これはレイプですッ! 訴えますよ!!」
「いいぜ。男にヤラれたって訴えてみせろ」
勇気を振り絞って発した言葉だったのに……槇の余裕のある表情に吾妻は絶望的な気持ちになる。
「嫌だ! 誰かッ!! 助けてッ!! 誰か来てッ!」
逃げようともがく体を何度も何度も押さえ込まれる。叫び、暴れて息が上がり、吾妻はぐったりとしてきた。
「誰も来ない。ここは俺のホテルだ。それに、すぐに合意になる……」
───助けてッ!正志さんッ!!
「助け……んんぅ!!」
正志の名を叫びかけた吾妻の唇は槇の唇によって塞がれた。
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