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203号室4

「あっ!」 槇は吾妻を仰向けにして、再びキスをした。吾妻の抵抗する力を削ぐ為の、腰がゾクゾクと震えるような濃厚なやつだ。吾妻は逃れようと弱々しくもがくが、もはやされるがままだった。 「……んっ、ぅふ……ん……んん!」 ちゅくっ……と唾液の絡む卑猥な音が響く。思う存分、吾妻の唇を貪ってから、槇は唾液の糸を引いて唇を解いた。 「はぁっ……あ、嫌だ……お願い、槇社長っ! もぉやめてくだ……ッ!」 槇は吾妻の股を開かせ、半勃ちの濡れたペニスを咥えた。吾妻の細い体が若木のようにしなる。 「あ!───いやだぁあッ!!」 吾妻は震える手で槇の頭を押しのけようとするが、大事なところを咥えられてしまっていては、ろくに力が出ない。 「あぁあ……こんな……こ、んなッ……ッ!」 吾妻は背を反らせ、大きく目を見開いて、ワナワナと震えている。初めてのフェラチオにショックを受けていた。 怖いのに、気持ちがいい。腰が勝手に動いてしまう。遊び慣れた槇の舌技に初心な吾妻が敵うはずもない。 「ぃやぁ……ぁぅ……ッ……やめてぇ、え……あ! や、嫌だ、ぁあ、こんなのっ……嫌ですッ!」 「こっちは嫌がってないぞ……」 ベロリと根元から舐め上げられ、再び咥えられて歯で扱かれる。 「あぁあ! あっあっ……いやぁああ……ぁんんッ!」 槇は吾妻の鼻にかかった甘い声に興奮していた。普段とのギャップがヤバかった。 地味な顔が快楽と苦痛に歪む様はひどくエロい。吾妻は涙を零しながら、やめてやめてと哀願している。 だが、ペニスは濡れて勃ち、ビクビクと愛撫を強請るように跳ねている。 「こうなっちまったら、止められた方が辛いぞ。大丈夫だ。気持ちよくしてやる」 じゅぷじゅぷと音を立ててペニスをフェラチオされて、吾妻は悲鳴のような声を上げた。 「いやぁあ───ッ! 嫌だ! いや……助けてッ! 正志さんッ!!」 吾妻が正志の名を呼んだ瞬間、槇は責める動きを止めた。 「ぅ……ひっ……正志さん、助けてッ……正志さん……ッ!」 吾妻の顔を見れば、キツく目を閉じて泣きながら正志を呼んでいる。体は槇に向かって開いているが、心を閉ざし、正志を呼び続けている。 ベッドで他の男の名を呼ばれる事など、槇にとって初めての屈辱だった。 多少強引なのは分かっているが、体は陥落しかけているというのに、こんなにも拒まれるとは……。 このまま抱く事もできるが、吾妻にとってはただの酷いレイプで終わってしまうだろう。 「……くそっ!」 「あっ……何を!?」 槇は己の男根を出して、吾妻のモノと一緒に握った。腰を使いながら、互いのペニスを同時に扱いた。 「ああっ! は、あぅ!」 ぬちぬちと擦れる槇の熱い肉棒に、吾妻はたまらず腰を震わせた。槇は無言で絶頂を目指す。 「あ、あ、あ!───はぁああッ!!」 「くっ……ッ!」 ほとんど同時に、二人は吾妻の腹の上に射精した。ハァハァと息を荒げて、槇は吾妻の隣にごろんと仰向けになった。吾妻は唖然と天井を見上げている。 初めて他人の手でイカされた事がショックだった。こんなにも嫌なのに、感じてしまった事が信じられない。 「……やっぱり、お前……清古とデキてるだろ。」 「……」 息が落ち着いてきた槇は起き上がり、サイドチェストに置かれたティッシュで適当に拭いてから衣服を整えた。スーツのポケットからタバコを出して、苛立った様子で吸い始めた。 怒っていいのは吾妻の方なのだが、不機嫌な槇に吾妻は怯えて動く事が出来なかった。 「……悪かった。つい、手が出ちまった。だが、隙だらけのお前も悪い」 だが、その言い方にカチンときた。 「す、隙って……仕事相手の社長が、男が男相手にこんな真似をするなんて、思うはずないじゃないですか!」 吾妻は体を起こして、シャツを掻き抱くように寄せて、ベッドの端に逃げて槇から離れた。 「ちゃんと言っただろう。誘わせてもらうと」 「あれはっ、僕を揶揄(からか)って……」 「揶揄っていないとも言っただろうが。あれだけハッキリ言ってやったのに、ラブホにのこのこついて来る方が悪い」 「しっ、仕事だって言ったじゃないですか!?」 「仕事は終わったって言っただろう。プライベートだ」 吾妻は真っ赤になって言い返した。 「貴方の言っていることはめちゃくちゃだッ!! 最低です!」 「何……!?」 槇に睨み付けられて、吾妻はビクッと怯えたように体を揺らした。それを見た槇は大きく息を吐いて気を落ち着かせた。 セックスの相手を怯えさせる事など初めてだ。少しくらい強引であっても、大概は槇が相手ならば……と、身を許したので合意になっていた。 だが、目の前の吾妻は槇を拒み、怯えている。 「悪かった。だが、清古と付き合っているなら最初から言え。俺は間男になるつもりは無い」 「正志さんと、付き合ってなんかいませんっ」 吾妻の驚いたような表情に、槇は訝しげな顔をした。 「じゃあ、なんで清古を呼んだ」 「助けて、ほしくて……」 ───無自覚か。 吾妻が清古と付き合っているなら、槇はここで手を引くつもりだった。 だが、付き合っているわけではないようだ。それに自覚も無い。 ───こいつ、落としてやる。 槇の瞳が獲物を狙う獣のように細められた。体は槇を受け入れつつあったのに、ここまで拒まれて、他の男の名を呼ばれた屈辱に槇は吾妻に対して理不尽な怒りを抱いた。 それに、支配欲も。 槇は立ち上げり、タバコをローテーブルの上の灰皿に押し付けた。振り返って吾妻を見つめた。吾妻はまだ槇に怯えている。 「もうしない」 軽く両手をあげて微笑んでみせる。 「悪かった。お前の事が欲しくて、つい暴走した。すまない。シャワーを浴びるか?」 「い、いえ。服を、着ます」 槇は床に落ちた吾妻の服を拾って差し出す。吾妻は躊躇いながら受け取った。 槇は吾妻を安心させるように、少し離れた位置に立っていた。 まだ小さく震える手でシャツのボタンを止めて、ズボンを履いた。ネクタイは上手く締める事ができなさそうなので、ポケットにぐしゃぐしゃに突っ込んだ。 「慌てなくても、今日はもう何もしない」 「……か、帰ります」 よろめきながら立ち上がった吾妻に、槇は鞄を差し出した。受け取ろうとした吾妻の手を引き寄せ、その体を抱き締めた。 「嫌だッ!! 離してッ!!」 「落ち着け。何もしない。本当だ」 「は、離してください。お願いです……槇社長……ッ」 怯える吾妻を落ち着かせるように、優しく背を撫でてやる。 「お前を揶揄ってるんじゃない。本気で可愛いと思うし、欲しいと思った」 「なにを……」 「だが強引すぎた。それは謝る。もうこんな乱暴な真似はしないと約束する。これからも仕事を続けてくれるか?」 槇は片腕で吾妻の腰を抱いたまま、もう一方の手で頬を優しく撫でた。気遣うようなそぶりに吾妻は戸惑ったが、正志の為にも槇との仕事は続けなければならない。 「し、仕事に私情は挟みません」 その言葉に槇は微笑んだ。 「よかった。これからも頼むよ」 「は、はい」 「ゆっくり口説かせてもらう」 「は、え?」 吾妻は驚いて目を見開いて槇を見上げた。槇は微笑を浮かべて吾妻を見つめている。 「今日のような真似は二度としない。だから安心してくれ」 そっと腕を解かれて、吾妻はじりじりと後退りして聞いた。 「どうゆう意味ですか?」 「そのままだ」 槇の甘い眼差しに耐えきれなくなった吾妻は「失礼します!」と、逃げるように部屋を出て行った。 「……今日は逃がしてやる。だがいつか、自分から抱いてくださいって、ねだらせてやるからな」 一人、部屋に残った槇は不敵な笑みを浮かべて呟いた。 吾妻はホテルを飛び出して走った。 早く部屋に帰ってシャワーが浴びたい。駅に向かって必死に走っていたが、こんな体で電車に乗るのは躊躇われた。 少し高く付くがタクシーで帰ろうと立ち止まって道路を見た時、背後からガシッと肩を掴まれた。 「ぃやッ!!」 吾妻は咄嗟にその手を振り払った。

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