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破滅3
「正志さん!!」
「優雨ちゃん!!」
吾妻はボトルのデザインの水槽を大切に抱きかかえて会場に戻った。正志は急いで吾妻の腕からボトルを受け取って、ホッとしたように息を吐いた。
「……ありがとう。優雨ちゃん」
「早く……あ!」
正志の背後の水槽を見て吾妻は息を呑んだ。めちゃくちゃにされていた水槽はすでに修復されていた。
昨日とは全く違うイメージに。
昨日は何もかもが崩れ去り、失われた世界にたったひとりになってしまったかのようだったが、今はまるで、これから破滅に向かうような雰囲気に変わっていた。
荒廃しつつある水の世界に黒く美しいキングテールのベタが泳ぐ姿は「破滅を導く者」のようだ。妙な不安を感じるのに目が離せない。そんなアクアリウムだった。
「間に合った……」
吾妻と正志は並んで水槽の前に立って大きく息を吐いた。
「やっぱり正志さんはすごいですね」
「優雨ちゃんのおかげだよ」
正志はそっと吾妻の手を握った。
「そんな、僕は何も……槇社長が……あ!」
「えっ?」
「槇社長に車で送ってもらって、そのままだった!」
まだ駐車場にいるはずだと、吾妻と正志は慌てて会場を走り出た。
槇は車の中で誰かと電話で話していた。吾妻たちに気付いて、少ししてから通話を切り、車から出てきた。
「槇社長! す、すみません!」
「うまくいったか?」
「槇さん。ありがとうございます! 助かりました!」
「魚一匹貸すくらい何でもないさ」
深く頭を下げる正志に、槇は気にするなと笑った。
「さっき吾妻には話したんだが、うちの事務員が体調を崩して休んでいてな。代わりに2~3日ほど吾妻に助っ人で来てくれるよう頼んでたんだ」
「えっ」
そんな話は聞いていない。吾妻は戸惑ったように槇を見た。
「空いた時間で構わないから、お宅の吾妻を少しの間借りてもいいか?」
槇が意味ありげな視線を吾妻に送ってきた。その視線に吾妻は体を硬くした。
「それは……」
正志が少し迷ったように言葉を濁した。吾妻は槇の事が苦手なはずだ。
顧客である槇に朝早くに無理を言ってベタを借りて、ここまで送ってもらったのだ。そのお返しという事だろうが、吾妻に無理はさせたくない。
「大丈夫です」
「優雨ちゃん」
「あの、いつもの仕事は夜にでもまとめてやるし、正志さんに迷惑はかけないから」
「それくらい俺と親父でやるから。でも大丈夫?」
正志が小声で聞いてきたが、吾妻は微笑んでみせた。
「槇社長には助けてもらったんだし、事務仕事なら得意だし」
正志は納得しきれていないようだったが、吾妻は槇に了承の返事をした。
「助かるよ。明日から頼む。また連絡する」
槇は車に乗り込み、軽く手を振ってから走らせた。
「優雨ちゃん。槇さんの事、苦手でしょ? 無理しないでいいよ、断って。他にできる事はないか俺が話すし。槇さん、強引だけど話のわかる人だし」
ホテルに設置するアクアリウムに何かサービスをつけるのでもいい、正志はそう思ったが吾妻は首を振った。
「大丈夫です。だって2~3日でしょ。それより早く会場に戻ろう」
「……うん」
納得しきれない表情のまま、吾妻に促されて正志は会場に戻った。
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