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第2話 嫌いなもの。
どうしよう。。
母は携帯電話を持っていない。
そうだ。
父に電話を掛けてみよう。
震える手に力を入れてズボンのポケットから携帯電話を取り出そうとして気が付いた。
俺。。
父さんの番号を知らない。。
どうして良いか分からず部屋の中をウロウロと歩き回った。
ふと、自宅の電話のメッセージランプが点滅しているのに気が付き、再生ボタンを押した。
『メッセージは2件です。1件目のメッセージです。』
「もしもし、お母さんよ。椿、、ごめんなさい。許して、、愛しているわ。。」
『2件目のメッセージです。』
「もしもし、お父さんだ。椿、、お母さんが、家を出た。今日は仕事で帰れないから明日話そう。」
『メッセージは以上です。』
両親が無事と分かり急に全身の力が抜け、その場に座り込んだ。
最初の内は、父と母が何を言っているのか理解出来なかった。
暫くして、頭の中で霧が掛かった様なモヤモヤしたものが徐々に晴れて行き、分かった事が有った。
自分は母親に捨てられたのだ。
そして父親はそんな息子を家に独り残したまま、明日まで帰って来ないのだ。。
どれぐらい時間が経ったのか、外はすっかり日が落ちていた。
俺は部屋の明かりを付けて片付けを始めた。
部屋を綺麗にし終えると、喉に渇きを覚えて、冷蔵庫の扉を開け麦茶を飲んだ。
シンっと静まりかえった部屋。。
不意に外から
『ドォーンッパチパチパチッ』
と大きな音が聞こえてきた。
窓に近付き外に目を向けると、家から程近い場所に在る河川敷で花火が打ち上げられていた。
「ああ。今日は花火大会の日だ。。」
窓を開けると、花火の音と共に皆の幸せそうな歓声が耳に飛び込んで来た。
「俺がお父さんに似てるからかな。俺が男だから、お母さんは出て行っちゃったのかな。俺が男らしい格好をしなければお母さんは戻って来てくれるのかな。。」
毎年、母と一緒に観ていた花火をぼんやりと眺めながら、涙が止め処なく溢れ頬を濡らした。
俺は嗚咽混じりの声で一晩中泣いた。。
俺には嫌いなものが増えた。
夏の夜。
花火大会の夜。
そして父に似ている自分。。
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