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第3話 母に似た顔。
中学を卒業する迄の3年間は父と暮らした。
以前と変わらず、父が家に帰って来る事は殆ど無かった。
父が通いのハウスキーパーを雇い、家の事は不自由が無かった。
変わった事と言えば、俺が料理を始めた事ぐらいだ。
高校生になると、父が所有しているマンションで独り暮らしを始めた。
成長するに連れ、俺の顔は母に似てきた。
色白で儚げで美しい母。
そんな母に似てきた俺。
背も余り伸びず、166㎝で止まった。
声も少し高め。
女性と間違われる事も少なくなかった。
皮肉なものだ。
あまり男らしい格好をすると父に似てくるのではないか。。
そんな不安が心の片隅に火種の様に燻り
女の子が好む様な色合いの服ばかりを選んで着た。
女になりたい訳じゃない。
男でいたくないだけ。
只それだけ。。
学校にはきちんと通った。
食事も自炊する事が多く、学費・生活費以外の金は自分でアルバイトをして稼いだ。
真面目だろ?
恋愛以外は。
中性的な容姿のせいか男女問わずにモテた。
セックスの相手に不自由する事は無かった。
女と寝た。
男とも寝た。
セックスのみの割り切った関係。
肌を重ねている間は、自分が必要とされ、求められている気がした。
その瞬間だけは、愛されている気がした。
恋人は作らなかった。
愛した人を待つ辛さを知っているから。
愛した人に捨てられる怖さを知っているから。
愛される事を望んでも無駄な事だと知っているから。
それなら最初から誰も愛さない方が楽だ。
大学4年生の夏休み。
就職も決まり、マンションの近くの居酒屋でアルバイトに勤しんだ。
大学1年の頃からこの店でお世話になっており、店長もスタッフも常連さんも気の良い人達ばかりで、とても居心地が良かった。
高校時分からの友人である、小川勝も一緒に働いている。
コイツとはセックスをした事が無い。
するつもりもない。
いくら適当な俺でも、友人と寝たりはしない。
先週、勝は片想いしていた女の子に告白をして付き合うようになった。
彼女も勝を好きだったらしい。
彼女は勝と俺が付き合っていると思い込んでいた様だ。
俺達が恋人同士だと勘違いしている人が多いみたいだが、彼女の誤解が解けたし、一々説明するのも面倒なのでそのままにしている。
母が出て行ったあの日から10度目の夏が訪れた。
俺は22歳になっていた。。
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