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第4話 初恋。

1年前。 「涼。お前今日誕生日だろ?彼女とデートか?」 『田中先輩。俺が今、恋人居ないの知ってて言ってますよね?』 俺が拗ねた口調で言うと、先輩は笑いながら俺の肩を軽く叩いた。 「そうだったな。お詫びに奢ってやるよ。」 大学の先輩が俺の20歳の誕生日祝いと称して、呑みに連れて行ってくれた。 着いた先は、俺のマンションからも程近い場所に在る居酒屋だった。 店の雰囲気は暖かみがあり、スタッフの接客態度も朗らかで、料理も美味しかった。 先輩は此処の常連らしく、スタッフと慣れた感じで会話をしていた。 2人で乾杯しビールを口に運んだ。 ビールもジョッキも良く冷えていて、喉を潤してくれた。 次に大好きな鳥の唐揚げを口に頬張ると、思いの外熱く、舌が痺れた。 顔を真っ赤にしていると、スタッフが駆け寄り、冷たい水が入ったグラスをすっと手渡してくれた。 俺は一気にそれを飲み干した。 「大丈夫ですか?」 耳心地の良い声が聞こえ 『だ、大丈夫です。』 そう言って顔を上げた。 華奢な身体付き。 背は割と高めで、短めだが艶やかな焦茶色の髪。 色白で美しい女性が目の前に立っていた。 「椿ちゃん。バイト出てるの久しぶりじゃない?会いたかったよ〜。」 先輩が彼女に笑顔で話し掛けた。 「うちの大学、試験期間だったから。田中君の方がお店に顔出してる回数多いんじゃない?」 彼女が苦笑しながら先輩に答えていた。 2人の会話をぼんやりと耳にしながら、彼女から目が離せなかった。 俺は今まで誰かを好きになった事が無かった。 何度か告白をされ取り敢えず付き合った女性が何人か居たが、結局好きにはなれなかった。 この先も誰かに夢中になる日なんて来ないだろう。 ましてや一目惚れなんて絵空事だ。 そう思っていた。 俺の名前は、神崎 涼 。 今日で20歳になった。 彼女の名前は椿。 今はそれしか知らない。 そして椿に出逢えたこの瞬間。 俺は人生初の恋に落ちた。。

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