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第7話 歯止め。

涼に初めて逢ったのは数ヶ月前。 常連客が彼を連れて店に来た。 彼の姿を見た瞬間、胸の高鳴りを感じた。 背が高く、細身だが、がっしりとした身体つき、端整な顔立ちにスッとした二重瞼。 笑うと意外に幼く見える。 俺は彼から目が離せなかった。 その数日後、彼が新人アルバイトとして再びこの店に訪れ、俺は彼の指導係に指名された。 彼は不器用ながらも、どんな仕事も懸命にこなしていた。 彼と一緒に居ると自然と笑みが零れる。 彼の隣はとても居心地が良かった。 一方で、頭の中で警告音が鳴り響く。 彼とは距離を置いた方が良い。 この感情が何なのか気付いてはいけないと。。 ある日、涼に一緒に帰ろうと誘われた。 彼の様子がいつもと違って見える。 何か悩みを抱えているみたいだ。 だが踏み込んではいけない気がして、そのまま帰った。 そして。。 彼が俺の元へとやって来た。 今、俺は彼に抱き締められている。 涼が俺を好きだと言った。 男の俺を好きだと言った。 セカンドでも良いと。 俺の男になりたいと。 心が震えた。 嬉しくて涙が出そうになった。 このまま彼の胸に甘えられたらどんなに良いだろう。 だが、、あの頃の俺が囁く。 彼もいずれ俺を捨てる。 彼もいずれ俺の元からいなくなる。 彼を望むのは無駄な事だと。。 だから俺は嘘を付く。 自分の気持ちに嘘を付く。 彼に嫌われる為に。 これ以上彼を好きにならない為に。。

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