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あの夏3
「あ……!」
立っていたのは豪じゃない。柳の兄だった。
ほとんど外に出ないせいで青白い顔に、眼鏡の奥の目はどんよりと曇っていた。
「……それ、盗んだよね」
指摘されて、葵は慌てて漫画を隠した。
「君の親や小学校の先生に、山岡がエロ漫画盗んだって言ったら大変なことになるね」
「ご、ごめんなさい! 返すから!」
どうしよう! 怒られる!
葵は怯えた顔で柳の兄を見上げた。柳はにんまり笑った。
「親には怒られたくないよね。僕は怒ってないし、内緒にしといてあげてもいいよ」
少しだけホッとした葵の隣に柳の兄は座って、エロ漫画をパラパラ捲 った。
「こうゆうの興味あるんだ?」
「な、ないよ」
「もっと面白いこと、教えてあげようか?」
柳の兄は怒っていないと言うが、葵は怖くてたまらなかった。でも、喉に魚の骨でも引っ掛かったみたいに上手く声がでないし、体が動かない。
葵よりも大きな手が、小さく震える少年の肩を掴んだ。
葵から離れて、ようやく落ち着いた豪は、少し恥ずかしくなった。ただの漫画にびっくりして逃げてしまったのだから、戻ったら葵に笑われる。
ため息ひとつ吐いて、豪は秘密基地へ戻った。
「……っ……ゃだ……っ!」
秘密基地の方から声が聞こえる。泣いてるみたいな声は間違いなく葵だ。
何かあったのかと、豪は急いで戻った。
秘密基地まであとちょっとのところで、豪は見えてきた光景に凍り付いたように動けなくなった。
「や、やだ、やめて……!」
葵はTシャツは着たまま、ズボンもパンツも脱いだ姿で、高校生らしき男に背後から抱きかかえられていた。まるで、小さな子がオシッコさせられてるみたいだ。
丸出しになった小さなちんこを高校生が触っている。
何をしているのか分からなかった。
でも、悪いことだ。
葵がグスグスと泣いている。その声にハッとして、豪は落ちていた木の枝を拾って高校生に殴りかかった。
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